60歳をすぎても、「今日行くところ」と「給料日」がある......これって思った以上に幸せなこと。趣味に、おけいこに、交友関係にと、老いの時間を豊かに生きるためには毎月ちょこっとでも現金が必要。「年金だけでは暮らせない」と不安に怯えるよりも、仕事を探して働きませんか。いきいきと働くシニアに取材して、仕事を得るノウハウや、自分らしく働き続けるコツを、実例を交えてご紹介します。
※この記事は『65歳で月収4万円。 年金をもらいながら ちょこっと稼ぐコツ』(阿部絢子/KADOKAWA)からの抜粋です。
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インターネットの仕事募集サイトで
新しい仕事に出合ったD・Mさん(68歳)
委託を受け、東京都内の小学校に併設された学童保育所を運営する葉隠勇進株式会社でパート勤務に就く。2015年1月に応募し、すぐに採用。3月に研修を受けて、4月から人生初の学童保育補助の仕事に挑戦。
(参考)年金受給額:ひと月あたり約75000円
時給:907円 月収:約90000円
勤務時間:月曜日~金曜日の13:30~18:30
*春休み・夏休み期間中は9:30~18:30
20代で広告関連の仕事に携わったあと、フリー編集者として長年働いてきたD・Mさん。65歳を過ぎたころから、「編集の仕事はやり尽くしたな、忙しいばかりの日々をもうちょっとトーンダウンしたいな、かといって独身でひとり暮らし、生涯現役で働かなきゃならない、四の五の言っていられない」と、職種替えを決意し、即行動に。まずはハローワークに行くのと並行して、インターネットを使って派遣会社を検索し登録しておくことで、仕事を探したそうです。
ハローワークでは、保育士補助講座を全講座受けて登録すると仕事に就ける可能性が高くなると知り、通い出しました。そのとき、講座で知り合った人が「自分は保育士の資格を持っているけれど、保育士の仕事は相手が0~1歳児だから、コミュニケーションが取れないところが物足りない。だから、もう少し年上の子の相手をする学童保育のほうが向いているような気がする」と言われ、Dさんも「自分もそうかも」と思い直し、インターネットで「学童」と職種を指定して、他にも場所などいくつかのキーワードを入れて検索しました。
すると、葉隠勇進株式会社の求人広告を掲載する派遣サイトを偶然見つけ、さっそく電話をして、面接を受けたといいます。ネットでの仕事探しに幸運な出会いがあったと、Dさんは話します。
面接の際、採用を決定するエリアマネージャーさんに、開口一番、「私のような高齢の者でも、いいんですか」と聞いたそうです。このエリアマネージャーさんとの出会いが、Dさんをグーッと仕事獲得に近づけていくのです。
「弊社で子育て支援事業が立ち上がって5年目ですが、この仕事は、いろんな年齢の人がいることが、子どもにとってはベストだと思うんです。家にいるのと同じように。私が面接して、実年齢が65歳以上でも元気で、この仕事に向いている、やっていけるな、という方は採用します。面接していてキャッチボールのように会話ができない方にはご遠慮いただきます。Dさんって、話していてすごく楽しくて、また個人的に会いたい方だったので、それで、即決しました」とエリアマネージャーさんはキッパリ言い切りました。
年齢を重ねた人の利点をよく理解しているエリアマネージャーさんと出会ったことは、本人も言う通り、非常に幸運であったといえます。
では、Dさんのどんな点に引き寄せられたのでしょうか。
「子どもに伝える力がある人かどうか、この方だと子どもたちはどういうふうに接するかなという点を見ます。子どもたちは、かなりストレートにいろいろと質問してきますから(笑)。ユーモアで返せる人がベストですね。あとは年齢より、体力があるかどうかというところ。この仕事は、体力勝負ですから。それと、子どもを見守る仕事なので、大きな声が出せることも大切です」
Dさんの仕事内容は、就労家庭の児童の保育支援や放課後に過ごす児童の見守り活動です。小学校の授業終了後、小学校1年から6年までの生徒さんが、多いときは一日70人ほど訪れ、宿題をすませたあと、室内や校庭で思い思いのペースで遊び、放課後を楽しく過ごします。
Dさんが働く学童保育所の写真を見せてもらいながら、詳しく話を聞きました。生徒さんたちが放課後を過ごす場所は、広い校庭に面した明るいスペースでした。そこには、キチンと並んだ勉強机があり、本や漫画、囲碁、各種遊び道具がたくさん壁面に収納されていました。授業終了後、集まってきた生徒さんたちは、登録カードを提出し、すぐに宿題に取り掛かるそうです。Dさんは、ふざけている子どもを注意したり、宿題を見たりと子どもの面倒をみます。
宿題の終わった子は、積木やブロックで遊ぶ、本や漫画を読む、囲碁の先生と碁を打つ、あるいはサッカーや鉄棒で遊ぶ、かけっこなどで身体を動かすなど、室内と校庭で遊ぶグループに分かれ、好きなことをして時間を過ごします。帰り時間は家庭の事情でそれぞれなので、帰宅時間が来た子どもから帰路に。
「はじめの数カ月は、子どもってかわいいなあ~って、有頂天になっていたのですが、かわいいばかりじゃないというのが次第にわかってきました(笑)。あるとき『うるせえ、クソババア!』って言われて、かなりグサッときてカァーッとなりましたが、めげずに『君はクソガキって言われたい?』って返したら、子どものほうがギクッてなって。子どもって、年齢によっても反応が違うので、何だか面白いですね。1~3年生に『先生、結婚したことある?』と聞かれて『ないよ』って答えると、『へえ~』で終わりますが、4年生ともなると『あ、子ども育てるの、面倒くさかったんだね』ですから。すごく大人の会話になって、理解力がガラリと変わります。仕事はあっという間に終わりますね。毎日、子どもの状態も違うし、状況も変化していますから」
夢は「校庭で子どもたちと鬼ごっこすること」だといいます。どこまでも前向きで、パワフルなDさんです。
Dさんが仕事にかける情熱は、これだけではなかったのです。友人とシェアしていた部屋を、仕事が決まった直後に引き払い、仕事場近くに引っ越しました。正に、職住接近を実行したのです。引っ越し先の住居も、インターネットで検索して見つけたといいます。そして、体力維持のため、毎朝ラジオ体操に通い、新たな住まい先で挨拶し合う顔見知りもできました。65歳を過ぎて、自分の思いが通じる仕事を得たのかもしれないと、私には思えました。
「友人に、学童保育の仕事に就いたのよと話すと、みんな、いい仕事見つけたね、天職じゃないのって、言ってくれます。もしかして、本当に天職かも」
Dさんがいきいきと子どもたちと接し、楽しそうに働く姿が目に浮かぶようです。学童保育所の仕事は楽しいと言うDさん。ぜひ、これからも働けるうちは働き続けてほしい、と願います。
★葉隠勇進株式会社
「大切な人のために、心を込めた愛情いっぱいの調理とサービスを提供する」という理念の下、1970年に設立された「お弁当」が原点の会社。事業内容は、病院・福祉施設・学校・保育園などの給食業務を中心に、社員食堂・保養所・研修センターなどの運営管理、子育て支援事業、コンビニエンス事業を展開。現在の従業員数は2818名。学童保育所の運営は子育て支援事業部で行っている。
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