2016年9月、医師から「肺がんステージ4」という突然の告知を受けた刀根 健さん。当時50歳の彼が「絶対に生き残る」と決意し、あらゆる治療法を試してもがき続ける姿に......感動と賛否が巻き起こった話題の著書『僕は、死なない。』(SBクリエイティブ)。21章(全38章)までの「連日配信」が大好評だったことから、今回はなんと31章までの「続きのエピソード」を14日間連続で特別公開します!
放射線治療
週明けの入院7日目、放射線治療が始まった。
朝一番に放射線治療室に呼ばれると、僕の顔型に合わせた器具が用意されていた。
前回斉藤先生と会ったときに顔型を取っておいたものができ上がったらしい。
フェンシングのお面のような網状の白いプラスチックが僕の顔にぴったりと収まるようになっていた。
そのお面をかぶり、頭が動かないように面の隅にある穴にボルトで装置に頭を固定した。
「はい、準備ができました。始めますよー」
「はい」
ジジジジジー。
独特の低い音が聞こえてきた。
僕は以前、カウンセリングをしてくれたさおりちゃんが言っていたことを思い起こしていた。
「何か治療とか、検査とかするときは、心の中でこう言うの。私はこの治療をすることで、健康になります。ありがとうございますって」
確かに不安におののきながら治療をすると効果も半減しそうだ。
僕はさおりちゃんの言葉を思い出しながら心の中でつぶやいた。
「私は、健康な身体になるために、この治療を受けます」
「私は、健康な身体になるために、この治療を受けます」
何度も唱えているうちに、感謝の気持ちがこみ上げてきた。
ああ、この治療を受けられるのも、放射能を発見してくれた人がいるからだな。
えっと、キュリー夫人だっけ?
子どもの頃に読んだ伝記のイラストを思い出した。
「放射線を発見してくれた科学者の人、キュリー夫人、ありがとう。あなたのおかげで僕は健康になります」
おお、それからこの機械を開発した人もいるな。
「この放射線治療器を発明してくれた人、ありがとう」
実際に作った技術者たちもいるな。
「この放射線治療器を作ってくれた人、ありがとう」
この機械をこの場所に据え付けてくれた人もいるな。
「この放射線治療器をここに据え付けてくれた人、ありがとう」
この機械を使って僕を治療してくれている先生や技師の人たちもいるな。
「この放射線治療器を使って、僕を治療してくれている人、ありがとう」
最後は全員を思い浮かべる。
「ありがとう、ありがとう、みんな、ありがとう!」
こうしているうちに、あっという間に約10分の放射線治療は過ぎていった。
放射線治療は毎日朝一番で呼ばれ、入院7日目から11日目まで続いた。
ある朝、ベッドから起きてみると枕にびっしりと髪の毛がついていた。
おお、ついに来たか。
頭を触り、髪の毛をつかんでみた。
すかすかと全く抵抗なく抜けた。
髪の毛でぐしゃぐしゃのベッドはいやだなと、シャワーを浴びに行った。
シャワーで頭をゴシゴシ洗うと、排水溝には髪の毛がびっしりとたまっていた。
おお、すごく抜けてる。
部屋に帰って鏡で見てみた。
僕は定位照射なので、放射線が当たるところと、当たらないところがある。
放射線が当たったところは見事に抜けていた。
僕は髪がない地肌の箇所が横に1周ぐるり回った、ストライプヘッドになっていた。
これじゃマッドマックスとか北斗の拳に出てくるザコキャラだな。
よし、全部切ってしまえ。
僕は病院1階にある床屋に向かった。
「どうしますか?」
床屋のお兄さんは聞いた。
「全部切ってください」
「バリカンの歯も長さがいろいろあってね。歯の長さ、どうします」
「もちろん、一番短いのでお願いします」
お兄さんが僕の頭に残った毛をバリカンで刈っていく。
僕はあっという間につるつるのスキンヘッドになった。
うん、これも悪くない。
つるつるになった頭をぺたぺたと触りながら、そう思った。
しかし数日経つと放射線の当たっていない部分が黒くなってきた。
短い毛が生えてきたのだ。
頭のストライプが前よりも目立つ。
そこで僕は毎朝髭剃りで頭を剃ることにした。
つるつるのお坊さんは毎朝これをやっているんだろうな。
頭をジージーと髭剃りで剃りながら、そんなことを思った。