あなたは年を重ねて疎まれていませんか?「人徳がある人とない人」の違い

知人の名前がどうしても出てこず「老化かな・・・」とへこむこと、ありますよね。そこで鍛えたいのが「思い出す力」。情報をただ「インプット」するのではなく、何度も思い出して「役立てる」ことで、情報が「知恵」に変わり、人生を充実させることができるんです。そんな話題の新刊『ど忘れをチャンスに変える思い出す力:記憶脳からアウトプット脳へ!』(茂木健一郎/河出書房新社)より、思い出す力を高めるための効果的な方法や、誰もがすぐにできるアクションを連載形式でお届けします。

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人徳のある人とない人の違い

孔子は『論語』で、「三十にして立つ」「四十にして惑わず」......「七十にして心の欲する所に従えども、矩(のり)を踰(こ)えず」と言いました。

70歳ではやりたい放題しても倫理に反しないようになったとは、すごいことだと思います。これは、経験をして、反省をして、学習をする、この繰り返しで、脳の回路のバランスが、ちょうどワインが熟成するみたいに円熟したという意味だと僕は理解しています。円熟は、欲求がなくなることではなくて、すべてがバランスよく育ったために、脳の中に特に突出した回路がなくなることなのです。

しかし、どうしてか年を取って徳が劣化してしまう人もいます。

威張ったり、他人の意見を聞かないようになったりしてしまう。特に根拠のない自信を持てないでいる人は、他人に自分を認めさせようと、自分から「私は偉いのだ」と激しくアピールして、かえって他人から疎まれてしまうところがあります。

意欲を持ち、過去の成功体験にこだわらず、自分がどういう状況にいるのか、どういう振る舞いをしているのか、周りはそれをどう思っているのかを鏡に映すように把握して、こういう行動をするとこういう結果になるのだと、しっかりフィードバックすると、脳は、悪い結果につながった行動を今後は抑え気味にして、いい結果につながった行動は強めようという形で学習し、徳を高めていきます。

しっかり鏡を見ることができれば、「マイナス」は刈り込み、「プラス」を強めて円熟していくのですが、徳が高まっていかない人は、鏡をうまく見ることができていないのです。

ゆがんだ鏡を見てしまっている。――空間的/社会的マインドフルネス、すなわち今の現実世界に対する意識と、時間的マインドフルネス、すなわち過去の経験に対する意識とを、広げていくことが、徳を高めることなのです。

クリエイティブなのは、尖った人で、円い人は、成功などしない。道徳的な人はつまらない。――まだそう思う人のために補足しておきましょう。

成功している人は、イメージは確かに尖っていても、その実、そうでないことが多いものです。たとえば、研究者であり、アーティストであり、実業家でもある落合陽一さんは、とても尖った存在感を出していますが、実際に会ってみると、人当たりがいい方です。タレントであり、宇宙開発事業をしている堀江貴文さんや、アーティストで実業家の猪子寿之さんも同じです。

彼らは常識外れで、とんでもないことを言ったり、やったりする人に見えるけれども、実際の仕事の相手や、仕事自体に対しては、大変礼を尽くします。周りも見えているし、自分の欲望に対しても忠実という生き方をしているのだと思います。

本当に素でも尖っているという人は、だんだん仲間も仕事も減ってしまうのではないでしょうか?

そういう人は、おそらく世間の人々の目に入ってこない。目立っている落合さん、堀江さん、猪子さんというのは、確かにイメージだけは尖っているけれども、実際には協調性があって、仕事があって、目立っているのであって、本当に素でも尖って、他人をばかにしているような人は、愛されないし、仕事がもらえていないはずです。

極端なことを言えば、特殊な才能などなくても、人の気持ちがわかって、いつも人のために動いているような人は、他人から好かれて、仕事をもらえます。それも一つの創造性なのです。

われわれは「尖っているほうがかっこいい」という見方から離れ、「円熟」の効用を、真剣に考えなくてはならない時期にも来ています。

尖っていて、華やかで、ぱっとその場で目を引くようなものが偉いというより、地味に見えるかもしれないけれど、本当に味わい深いもの、一生持っていけるような深い知恵とは何なのかと、見直していくことで、多くの人が救われるのではないかと思います。

クリエイティブな仕事をする人たちの中にも、「破滅的なものが偉い」という思想が根強くありますが、それは昔のことにしていくべきです。文明的にも文化的にも発達の途中で、とにかく駆動力が必要だった時代には、尖ったものが必要だったでしょうが、物があふれて、何もかも飽和状態の今は逆に、円熟の思想こそ求められているのです。

当たり前なことですが、破滅したら、少なくとも幸せにはなれません。

破滅的な人格の人が描く小説が面白い。破滅的でないと芸術家にはなれない。そんなのは嘘です。

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あなたは年を重ねて疎まれていませんか?「人徳がある人とない人」の違い 思い出すカバー帯.jpg情報過多の現代に「思い出す力」を強化することで、クリエイティブになれる「新しい脳の使い方」を教えてくれる一冊。全6章の構成で、各章にはポイントやレッスンの「まとめ」がついた保存版です!

 

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)

1962年東京生まれ。脳科学者。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、現在、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。2005年、『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞、2009年、『今、ここからすべての場所へ』(筑摩書房)で第12回桑原武夫学芸賞受賞。

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『記憶脳からアウトプット脳へ! ど忘れをチャンスに変える思い出す力』

(茂木健一郎/河出書房新社)

AI(人工知能)が本格的に普及していく現代において、「思い出す力」を強化することを解く話題の一冊。「思い出す」という行為が、過去をなつかしんだり、ノスタルジーに浸るためのものではなく、非常に創造的な行為であること。そして従来の「暗記・記憶=インプット」偏重の脳から「アウトプット脳」に変えることが、これからの時代を生きるために必要なことを明らかにしていきます。

※この記事は『記憶脳からアウトプット脳へ! ど忘れをチャンスに変える思い出す力』(茂木健一郎/河出書房新社)からの抜粋です。

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