「親が認知症になってほしくない...」介護のことも考えて、そう思う人も多いでしょう。東京医科歯科大学名誉教授の藤田紘一郎先生は「認知症は予防できる病気で、何もしないのはもったいない」と言います。そこで藤田先生の著書『親をボケさせないために、今できる方法』(扶桑社)より、食事と生活の中での「認知症の予防策」についてご紹介します。
歩数計は認知症予防の最高のプレゼント
私が免許を返納したら、家族が歩数計をプレゼントしてくれました。
「ボケないために、一日に1万歩、歩いてね」ということのようです。
私はもともと歩くことが大好きでした。
運動することも走ることも得意でした。
学生のときには柔道やマラソン、成人してからはテニスや登山を楽しんだりと、体力には自信があったほうでした。
しかし、パーキンソン病のような症状が出てきてからは、足がこわばってうまく動かないこともあり、歩くのがおっくうに感じることもありました。
ところが、朝食抜きを始めて、朝にMCTオイル入りのコーヒーを1杯飲むようになってから、私の症状はずいぶん軽くなりました。
関連記事:アルツハイマー病によい!? 朝食代わりに名医が勧める「MCTオイル入りコーヒー」とは
ケトン体を多くつくり出せる身体になり、身体や脳のなかの炎症が治まってきたからなのでしょう。
身体も疲れにくくなり、歩くことも楽になりました。
白澤先生も、ケトン体はアルツハイマー病だけに有効なのではなく、「パーキンソン病、てんかん、筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう-ALS)にも効果が期待できる」と『ココナッツオイルでボケずに健康』(主婦の友社[生活シリーズ])で示されています。
体力の衰えを実感することは、高齢世代にとって大きな不安です。
不安や孤独などの心理状態も、認知症を招くリスクファクターになります。
そんなときに、家族からプレゼントされた歩数計は、「またがんばって歩こうかな」と私の背中をほんの少し押してくれました。
免許がなくても、自分の足で歩いていける身体ならば、まだまだ行動範囲を広げていくことができると思わせてくれたのです。
実は、歩くことは、認知症のよい予防策になるのです。
とても興味深い研究結果があります。
「歩幅が狭い人は、広い人よりも認知症になりやすい」と、東京都健康長寿医療センター研究所の谷口優(たにぐちゆう)研究員が2012年に報告しています。
谷口研究員のチームは、群馬県と新潟県の2つの地域で70歳以上の高齢者を対象に、認知機能を含むいくつかの検査を実施しました。
追跡期間は2年7ヵ月、対象人数は683人です。
この研究で明らかな違いが現れたのは、歩幅でした。
歩幅を「広い」「普通」「狭い」の3つのグループにわけて調べたところ、広い人たちよりも、狭い人たちは発症リスクが約3倍にもなりました。
女性の場合はさらに差が明らかで、5・8倍にもなったのです。
老化よって運動量を減らすことは、身体の脂肪量を増やし、筋肉を弱らせます。
筋肉が弱れば歩幅を広くできず、小幅でちょこちょこと歩くようになります。
こうした歩き方はとても疲れやすく、歩くのがおっくうになります。
すると、ますます日常生活の運動量の減少に拍車がかかります。
結果、認知症が起こってくるという構図が生まれてしまうのだろうと考えられるのです。
免許を返納した親には、歩数計を贈ってみてはいかがでしょうか。
そして一日の終わり、「今日は何歩、歩いたか」をメールなどで報告しあい、「歩幅を広く歩いてみてね」とアドバイスする。
こんなことでも、親の認知症を防ぐよい方法になります。
歩行時間は一日24分だけでいい
では、どのくらいの時間を歩けば、認知症の予防に役立つでしょうか。
東京都健康長寿医療センター研究所の報告によれば、「70~80歳の女性の認知機能テストの成績と日頃の運動習慣の関係を調べた研究によると、日頃よく歩く人はテストの成績がよく、少なくとも1週間に90 分(1日あたりにすると15分程度)歩く人は、週に40分未満の人より認知機能がよいことがわかっている」とのことです。
さらに週に2・8時間以上歩く人は、認知機能の得点が大きく上がります。
単純に計算して、一日に24分以上です。
私は「ボケ予防に一日1万歩、歩いてね」と歩数計をもらいましたが、認知症予防のためならば、そんなにたくさん歩かなくてもよいようです。
ではなぜ、歩くことが認知症を防ぐことに役立つのでしょうか。
脳は体重の2パーセントしかない臓器です。
それなのに、全身の20パーセントもの酸素を消費しています。
脳の神経細胞は、活動に多くのエネルギーを使うため、たくさんの酸素が必要なのです。
そのために、大量の血液が脳に送られています。
神経細胞はとても繊細な細胞で、血流が滞ると傷つきやすく、一度傷つくと再生されることがありません。
〝ゴミ〟となってしまうのです。
このゴミがしっかり回収されないことによって、認知症を引き起こすことは前述しました。
ゴミを排除するには、血流をよくして不要物を運んでもらうことが欠かせません。
同研究所では、歩くことが海馬や大脳皮質の血流を増やすことになると指摘しています。
「アセチルコリン」という化学物質が増えることで、脳内の血管が広がり、血流がよくなることを発見したのです。
しかもアセチルコリンは、脳を守る大切なタンパク質を増やします。
また、アセチルコリンを放出する神経の働きを高めることによって、神経細胞のダメージを軽くすることもできるということです。
では、アセチルコリンの脳内量を増やすには、どのように歩くとよいでしょうか。
ラットを使った実験では、速く歩く必要はなく、血圧があまり上がらない程度の無理のない歩行が重要とのことです。
以上をまとめると、認知症を予防するための歩き方とは、「歩幅は広く、無理のない程度のふだんどおりの速さで、一日24分以上歩く」ということになります。
では、これをどのように親に伝えると、すんなり実行してもらえるでしょうか。
理想をいうならば、親子で一緒に歩いているときに、世間話でもするように「前に本で読んだんだけどね」と話すといいでしょう。
一緒に歩けば、親がどんな歩き方をしているのかもわかります。
「ちょっと歩幅が狭いから、もう少しおおまたで歩くと、脳にいいらしいよ」といえば、とてもわかりやすく、心にストンと落ちてくるものです。
さらに、「もう少し一緒に歩きたいから、ちょっと遠回りして帰ろうよ」とわが子にいってもらったら、親としてがんばらないわけにはいかなくなるでしょう。
なお、足が思うように動かなくなっている場合には、手や足をゆっくりと優しく15分程度こすってあげることでも脳の血流を増やせるということです。
【まとめ読み】『親をボケさせないために、今できる方法』記事リスト
高齢の親の認知症を予防する「具体的な59の方法」が、4章にわたって解説されています