「親が認知症になってほしくない...」介護のことも考えて、そう思う人も多いでしょう。東京医科歯科大学名誉教授の藤田紘一郎先生は「認知症は予防できる病気で、何もしないのはもったいない」と言います。そこで藤田先生の著書『親をボケさせないために、今できる方法』(扶桑社)より、食事と生活の中での「認知症の予防策」についてご紹介します。
朝食の代わりに「MCTオイル」入りのコーヒーを飲ませて
70歳を超えた親に「朝食をとらないで」とストレートにいえば、「残りの人生、好きなものを食べて何が悪い」と怒られるかもしれません。
でも、好きなものを好きなように食べ続け、長期の介護が必要な身体になってしまったら、その負担は家族が背負うことになります。
そのほうが大変です。
朝食抜きは「がまん」を強いるようで、気の毒に感じるかもしれません。
ですが、人の身体は「食べられない」という状態のほうが、当たり前のことなのです。
人類が誕生したのは、およそ700万年前。
世界で農耕が始まったのが、おそらく約1万年前だろうと考えられています。
つまり、人類史のほとんどを、人は狩猟採集によって生き抜いてきたのです。
狩猟採集時代、獲物がとれなかったり、天候が悪かったりして、食べるものがない日のほうが多かったでしょう。
人間の遺伝子は、十分な食糧を得られなくても、そのときどきの環境に臨機応変に適応できるよう、長い時間をかけてゆっくりと変化させてきました。
ブドウ糖を得られなくても、ケトン体を生み出せる身体になったのも、このためでしょう。
反対に、現代のように食べるものに困らず、身体を動かす機会が激減した生活に、いまだ人間の遺伝子は適応できていないのです。
人が生きのびるために獲得した農耕という能力が、文明の発達の助けを借りて飽食の時代を生みました。
そして、人を加齢とともに長期介護の必要な身体にするという皮肉な結果を導き出したのです。
つまり、「食べない」という選択は、「がまん」ではなく、介護のいらない身体になるために必要なこと。
ケトン体を上手に使える身体になる一歩です。
それを理解したうえで、親に話してみるとよいと思います。
「朝食を抜くようになると、身体のなかに健康なまま長生きするための物質が、たくさんつくられるんだよ。いつまでも健康でいてほしいな」そうわが子にいわれて「うん」と首を縦にふらない親はいないと、私は思うのです。
「ボケ予防のために朝食をやめる」と私が宣言したところ、「これがいいみたいよ」と娘が持ってきてくれたのが、MCTオイルでした。
テレビの健康番組で「アルツハイマー病によい」と紹介されていたのを見たそうです。
MCT(Medium Chain Triglyceride)とは「中鎖脂肪酸」のことです。
脂肪酸とは、脂質の主な構成要素のこと。
それを構成する炭素の数から、短鎖、中鎖、長鎖という3つのグループにわけられます。
このうちの中鎖脂肪酸は、腸からの吸収が速く、肝臓ですみやかにケトン体に分解されて、エネルギー源として使われる性質があると考えられています。
中鎖脂肪酸の効果について、日本に広く知らしめたのは、抗加齢医学の権威である白澤卓二(しらさわたくじ)先生(お茶の水健康長寿クリニック院長)です。
長年、アルツハイマー病について研究されてきた白澤先生は、「アルツハイマー病とは、脳の神経細胞が〝ガス欠〟の状態になり、さまざまな認知障害の症状を引き起こす疾患」といわれています。
通常、ブドウ糖が細胞内にとり込まれる際には、インスリンというホルモンが働きます。
しかし、糖尿病があったり、加齢で細胞の老化が進んでいたりすると、インスリンがうまく働かなくなります。
すると、脳細胞もブドウ糖をうまくとり込めずに脳の神経細胞が〝ガス欠〟を起こし、傷つきやすくなるのです。
いっぽう、脳内に入ったケトン体はインスリンを介さずに細胞にとり込まれます。
そのため、細胞内にスムーズに入り、効率よくエネルギーをつくり続けられるのです。
〝ガス欠〟を起こしやすい高齢世代の脳にとって、ケトン体が必要なのはこのためでもあるのです。
ケトン体の産生量を増やすには、朝食を抜いて空腹の時間を長く設けるいっぽうで、MCTオイルをとることです。
MCTオイルは、最近はスーパーでも手軽に買えます。
私は、朝食の代わりに、コーヒーにMCTオイルをスプーン1杯入れて、ゆっくり飲むようにしています。
【まとめ読み】『親をボケさせないために、今できる方法』記事リスト
高齢の親の認知症を予防する「具体的な59の方法」が、4章にわたって解説されています