「迷惑をかけたくない」在宅介護か介護施設を迷っていた私に母がかけた言葉

<この体験記を書いた人>

ペンネーム:せつ
性別:女
年齢:59
プロフィール:田舎で母と2人暮らし。母は、骨粗しょう症とアルツハイマー型認知症を患っているため、私は在宅介護をしています。

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アルツハイマー型認知症を患っている母を在宅介護しています。私と母が住む家があるのは、山に囲まれた自然豊かな町。運転免許証を持っていない私の移動手段は、1日数本しか走らないバスしかなく、母を病院に連れて行くのは介護タクシーでした。

母の症状は日によってばらつきがあり、夜眠れないことやトイレが上手くできないこともありましたが、昔から住み慣れたこの家での生活は落ち着いたものでした。ただ、母は骨粗しょう症も患っているのですが、アルツハイマー型認知症になってから、気付かぬうちに骨折することが増えてしまったのです。私ひとりで母の行動を監視しながら、骨折しないようにサポートすることは難しいため、いつもお世話になっているデイサービスのスタッフに相談することにしました。

そこで勧められたのが、介護付き老人ホームへの入居でした。しかし、家から最寄りの老人ホームまでは、公共交通機関を利用するとバスと電車の乗り継ぎが必要になります。また、田舎は高齢化が進んでいるため、入居希望者も後を絶たず、空きが出てもすぐ埋まってしまう状態でした。それなら交通の便の良い繁華街に引っ越しをしたり、いっそ他県の施設へ入所した方がいいのではないか、という提案が出ました。確かに交通の便の良い地域の方が、他県に住む姉や親戚も気軽に母に会いに来れるし、買い物等もしやすいとは思いました。

問題は、母の大好きなこの家と町を離れてしまうという点でした。もともと母は、デイサービスにも乗り気ではなく、施設へも行きたいという気持ちが少ないようでした。ただ日によって考え方も感情も変わってしまうため、毎日意見は変わっていました。しかし、いつも夜には私の名前を呼び、「ここの家はみんなと住んでた思い出があっていいね」と言うのです。その母の姿を思い出すと、私ひとりの気持ちで施設への入居を強要することができなくなってしまいました。

しかし、私自身も若くないですし、ひとりで母をサポートするには限界があります。母も、過疎化している地域で私とふたりでいるよりも、同じような環境の友達を作った方がいいのではないか、とも考えました。そして、ある日母は私に言ってくれました。「いつもそばにいてくれてるのはわかる。私の気持ちよりもあんたの負担が減ることを考えなさい。迷惑をかけたくない」と。私が母の気持ちを優先したかったように、母も私の気持ちを考えてくれていたのです。私は、離れていても母との関係は変わらない、と確信を持つことができました。

母は今、県外の施設に入居しています。週末には、姉や孫、ひ孫が会いに来て賑やかに過ごしています。そして私は、母と住んでいた家でひとり暮らしです。母が大切にしてきた場所を私も大切にしたいと考えています。離れて暮らしていても、いつか母が完全に私や家のことを忘れてしまったとしても、きっとこの気持ちは変わりません。

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