「オレ、あの大学行きたくないんです」高校球児と60代飲食店主の奇妙な縁

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ペンネーム:オイラ
性別:男
年齢:69
プロフィール:高校野球界では知らぬ人がいない監督と知り合って、その子供達とのドタバタなやりとりの魅力に惹かれてしまいました。

※ 毎日が発見ネットの体験記は、すべて個人の体験に基づいているものです。

◇◇◇

飲食店を営む私の飲み友達には、近くの高校で野球監督をしているMさんがいます。

Mさんがきっかけで、高校野球選手と交流をもつようになりました。

そのうち、公式戦はもちろん、店の暇をみつけては、グラウンドまで日々の練習も見に行くようになりました。

そうすると、同じようにしか見えなかった坊主頭の子供たちが、毎日眺めていると、皆一人ひとり違うという、当たり前のことに気づかされました。

昨日は元気だったのに、今日のあの子はおかしい? といったことにも気づきます。

私は気になる子供たちを店に呼んで、食事を食べさせるようになりました。

もちろん、お代はいただきません。

図体はでかいけれど、孫にあたるようなこの子供たちが、私には可愛く思えていました。

そんな子供たちのなかにKがいました。

Kは体が大きいほうではありませんが、高校通算50本近くの本塁打を打ったスラッガーです。

プロ球団のスカウトからも注目されていました。

Kは生まれてすぐに両親が離婚したそうで母子家庭。

そのせいか、他の子供たち以上に私になついていました。

私がグラウンドに行くと「K! お父さんが来たぞ」と、他の子供たちにからかわれるのが常でした。

Kが進路を決めなければならない、3年の秋を迎えた時です。

一番の希望はプロ野球でしたが、スカウトからの手ごたえは育成指名ならば、という感じだったそうです。

そこで、通常の指名でないなら、プロ志望はしないで大学か社会人野球に進むということでKも母親も監督も意見が一致していました

問題はこの時に起きました。

大学へ進路を決めたまではよかったのですが、進路先となったA大学をKが「絶対、嫌だ!」と言い出したのです。

M監督が大学を勧めるわけは、最終的にプロをめざしたいKにとって実績面からみて申し分のないうえに、プロ入りが叶わない場合にも、有力な社会人野球に対して十分に可能性をもつ大学だからです。

嫌がるKの理由は「軍隊みたいなチーム」で野球をするのが嫌だ、という幼児じみたものでした。

K本人があくまでそう言い張るならと、M監督も匙を投げざるをえなくなっていた頃に、Kの母親から私に電話がありました。

「自分には詳しいことはわからないが、どうなっているのか心配で」ということでした。

怪訝に思いながらも私は、M監督から聞いている経緯を母親に説明しました。

母親はKから「A大学へは行きたくない」という結論だけしか聞かされてなくて、私の説明に対し「初耳」を連発しました。

そこで私は、M監督や私の考え方に母親が反対でないのなら、Kの説得を直接私が行うことの了承を取りました。

私はKがA大学に抱いているかもしれない誤解を解きほぐすべく、説得を試みました。

「A大学に限らず、住めば都で行きもしないうちに、ダメだと決めつけては自分が損をするだけだ。Kは関西にあるG大学に行くと言うが、プロへ行きたいという夢はそこでは果たせないだろう。Aなら特待生だが、Gなら授業料もまともに掛かって、お母さんの負担も増えるじゃないか」などと迫る私に、Kも肯きはするが、最後は「嫌です」の一点張りでした。

その日は、私もKと別れました。

けれども、私はこれしかない策を考えました。

すぐさまKの母親に電話を入れ、Kとのやりとりを伝えた後、今のKを翻意させられるのは母親しかいないこと、女手一つで学費を捻出するのは大変なことなど、Kに対して泣き落としの一手しかないことを承諾してもらいました。

しばらくして、母親から「A大学にお世話になることになりました」との連絡が来ました。

それから1年してKから「久々に帰るので、飯をおごってください」と元気そうな連絡があり、その食事の席でオムライスを頬張りながらKが言ったものです。

「A大学もいい所ですよ」と。

私は「お前がそれを言うか」と腹のなかで思いながら、苦笑いするしかありませんでした。

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