<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男
年齢:59
プロフィール:帰省も、こちらから様子を見に行くこともできず、初めて家を離れた娘(26歳)は人生初の一人で過ごす正月でした。
「...そうか、そうなんだ。やっぱり無理だね」
2020年の暮れも押し詰まったころ、関東圏の中学校教師として社会人デビューをした娘と、寂しい電話をする羽目になりました。
年末年始に予定していた帰省を断念するという内容でした。
娘が言うには、教育委員会からの通達で、原則的に他県への移動をしないようにと言われたそうです。
「お正月ぐらい...」と言ったものの、もし帰省中に感染などしたら、周囲にかける迷惑は計り知れないということであきらめたようでした。
年明けに、長く顔を合わせていない私の両親のいる実家へ顔を出す口実にするために、夫婦で関東方面への旅行も予定していました。
しかしGo Toトラベルの一時停止とともに「無理して行くのはまずいか」という判断でキャンセルすることになりました。
実は、帰省した娘が実家を離れるタイミングでこの予定を組んでいたので、久しぶりに親子で行きたいと、妻が某有名テーマパークの予約を取っていました。
しかし、「これ、なかなか取れなかったチケットなんだけどなあ...」と涙を呑んでこれもキャンセルとなりました。
隣県に就職していた息子は、三が日だけそそくさと我が家に来て(本来は義母(享年82歳)の喪中なのですが)妻が準備したおせち料理をかき込んでいきました。
そして、「姉ちゃんはやっぱり帰ってこれないのか、ふーん...」と、余計なひとことを言って、妻の落ち込みに拍車をかけてくれました。
「なんかこのままずっと会えないんじゃないかな...」
いつもは楽天家の妻もさすがにショックを受けていました。
「まあいつまでもコロナってわけでもないだろうし...今年だけだよ」
「そうかなあ...」
などと言っていたら非常事態宣言が出され、妻はますます落ち込むことに。
そんな中、あのテーマパークの柄の入った段ボールの荷物が届きました。
送り主は娘です。
「なに、これ? あの子、1人で行ったのかしら」
そう言いながら箱を開けてみると、中には妻の大好きなキャラクターのグッズがぎっしり詰め込まれていました。
「これ、新しいぬいぐるみ! こっちは欲しかったお風呂セット...」
喜ぶ妻が中に手紙が入っているのに気付きました。
「1人で過ごすお正月もちょっと新鮮です。そちらはどうですか? きっと落ち込んでると思ったので、まあ、これで少しは行った気分になってね」
娘は時間を見つけて某テーマパークの近くのグッズショップに出向いて、妻の好みを考えながら特別セットを作って送って来てくれたのでした。
娘の心づくしの箱を眺めながら「娘からプレゼントもらうようになったら、親の面目丸つぶれだわ」とため息交じりに妻が呟きました。
「...さて、じゃあお返しに、あの子の好きな物ばかり詰め込んだデリバリーパックでも作りましょうかね」
そう言いながら台所に向かう妻の目は確かに潤んでいました。
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