<この体験記を書いた人>
ペンネーム:masako
性別:女
年齢:53
プロフィール:53歳の主婦です。アルバイト先で起きた、モツ煮にまつわる小さな事件をお話します。
先日、グルメ番組でモツ煮が取り上げられているのを観て、モツ煮にまつわる、ある出来事を思い出しました。
それは2007年、私が書店でアルバイトをしていた時のことです。
その書店は朝の9時から23時まで営業しており、昼勤務と、夜勤務で回していて、私は昼勤務でした。
書店は郊外の店で、歩いていける範囲にはコンビニすらありません。
そのためスタッフは2階の書庫の隣にある休憩室で、手作りのお弁当か出勤前に買ってきたものを、交代で食べるのが常でした。
休憩室の設備は充実していて、電子レンジ、ポット、冷蔵庫はもちろんのこと、ミニキッチンまで完備。
モツ煮事件は、その休憩室で起こったのです。
その日、書店の店長(当時40代の既婚男性)と同僚の女性Aさん(当時30歳)と私の3人で、休憩室でお昼を食べていました。
私とAさんは出勤前に買ったコンビニのサンドイッチだったのですが、店長は唐揚げや卵焼き、プチトマトなどが彩りよく並ぶ手作りのお弁当でした。
てっきり奥様が作ったのかと思ったのですが、なんと店長のお手製。
店長は料理が趣味だったのです。
得意料理を尋ねると、店長は「モツ煮」と得意げに答えました。
その時、私達に振る舞いたそうに見えたのですが、私はモツ煮があまり好きではなかったので、何も言いませんでした。
ですが、調子の良いAさんはすかさず「えー、店長のモツ煮なら、美味しそう。食べたーい」と大袈裟に言い出しました。
店長は「じゃあ、そのうち」と嬉しそうに答え、3日後、大鍋いっぱいのモツ煮を自家用車に積み込んで、出社してきたのです。
モツ煮は、お昼休みにみんなで頂きました。
味はとてもよかったです。
でも、そんなに大量に食べるものではないし、言い出しっぺのAさんは、実は「モツ煮が苦手」とのことで、まったく手をつけようとしません。
ちょうど出勤者が少ない日でもあり、4時の二度目の休憩の時点では、四分の一も減っていませんでした。
店長も「口に合わなかったかな」と寂しそうです。
Aさんは知らん顔ですが、Aさんが店長におねだりをした場にいた私は妙に責任を感じました。
その時、困り果てた私の脳裏に、夜勤務の学生アルバイトの男性B君(当時20歳)の顔がよぎります。
ラグビー部のB君は食べ盛り。
きっとモツ煮も大量に食べてくれるに違いありません。
その日はB君は休みだったうえ、それほど親しくはなかったのですが、勇気を出してメールを送り、事情を説明しました。
B君からはすぐに「任せてください」との返事がきました。
その後、トイレに行くふりをして様子を見に行くと、休憩室にはB君の姿が。
B君は公休日なのに、モツ煮のために出社してくれたのです。
鍋の中身は、残り半分ほどに減っていました。
しかも、B君は他の夜勤務のスタッフに「店長のモツ煮があるので、腹を空かせてくるように」とメールをしてくれたそうです。
「余裕で完食ですから、安心してください」とB君は厚い胸を叩きました。
惚れてしまいそうなくらい、頼もしかったです。
結局モツ煮は夜勤務の人たちが「美味しい」と完食して、店長の面目も立ったようです。
その1カ月後に私は退職してしまったのですが、聞くところによると、これ以後、店長はどんなにAさんがおだてても、自作の料理を振る舞うことはなかったそうです。
きっとモツ煮で懲りたのでしょう。
それを聞き、安易に人をおだてないようにしようと思いました。
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