<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ひろえもん
性別:女
年齢:56
プロフィール:4匹の猫と夫と海辺の街で暮らし、1円でも安いスーパーを求めて駆け回る普通の関西のおばちゃんです。
SNSでスピリチュアルにハマっている若者を見ると、30年前に付き合っていた完全菜食スピリチュアル信仰の彼との痛い恋愛を思い出します。
彼は肉、魚、卵、乳製品といった動物性食品は一切食べない人でした。
彼の影響で豆と野菜のスープしか食べなくなった当時26歳の私の体重は、2カ月で15kg減少。
彼が好きで浮かれていた私は浄められたような高揚感を感じましたが、後から考えると大学まで運動部で培った筋肉がごっそり落ちた危険な状態でした。
その頃から意識を失ったり、夜中に手が震えたり、呼吸困難になったり異変が起き始め、低カリウム血症ではないかと診断されました。
もちろん、菜食で健康維持できる人はいますが、急激な食生活の変化は取り返しのつかないダメージを身体に与える危険性があります。
彼の興味の全ては信仰なので、自然と私も彼の世界に引きずりこまれました。
彼の勧めるままに瞑想や内的世界を旅するアストラル旅行に没頭し、友人に会うことに興味がなくなりました。
海外の儀式に参加したこともあります。
夜中に砂浜で焚き木を囲み、3年間の辛い出来事を紙に書いて焚き木にくべ、巫女に霊視してもらい、自然への貢物として海にリンゴや花を投げ込み、最後に自分も海に入って身体を浄めるという儀式です。
真夜中の冬の海だったこともあり、現地の警察に見張られていました。
その宗教を否定する考えはありません。
ただ、2つの事件をきっかけに彼の信仰やその目的に不信感がつのり、若き日の痛い恋愛に終止符を打つことになったのです。
1つ目の事件は、夜中に田舎道を車で走っていた際、小鳥が車にあたったかもしれないと真っ暗闇の中、探し始めたことです。
「ここに停車していたら後続車に追突されるかもしれないよ」
そう訴える私を無視し、彼は1時間ほど探していました。
2つ目は、ヨーロッパの田舎町で、老婆が雨の中を裸足で歩いていた話をした時の彼の反応でした。
老婆を見つけた私はバスの運転手に社会福祉の連絡先を聞いたのですが、運転手から「皆、必死で生きているから他人のことなんて気にしてられない!」と言われました。
そのことを彼に話すと、鼻で笑って「どうして自分の靴を貸してあげなかったの?」と言ったのです。
まるで彼自身が神のように、卑俗な輩を見下ろすような目で。
そう言われて、なぜそうしなかったのだろうと自責の念にかられる一方で、私はこうも思ったのです。
「ちょっと待て。この人は私の教祖様になりたいだけで、パートナーとは思っていないんじゃないか? 動物は善良、人間は愚かと信じ、実際の人間には憐みを感じない人なのかも?」
そう思ったのです。
彼は幼少期の父親の暴力で人間不信になり、友人は皆無でした。
周りには、いわゆる「信者」しかいませんでした。
人智を超えた力を背後に匂わせることが、彼にとって唯一の自己防衛手段だったのかもしれない、そう思いました。
上の立場で人をコントロールしていれば攻撃されることもないからです。
「宗教を利用し自分を偉大だと思わせ、人を支配しようとする行為が信仰なの?」
私は突然、彼のマインドコントロールから解放され、同時に彼への恋心も一瞬にして消え去りました。
一度だけ彼と旅行をしましたが、レストランには行かず、もやしの瓶詰めを40個買い、ひたすら車の中で食べるだけ。
自分の意思とは真逆のことをさせられても、1ミリも疑問を感じなかったあの頃の自分を今でも不思議に思います。
今こうして生臭い現実に生き、好きなところに旅行し、好きな料理を食べ、友人と下らない話で盛り上がる。
高尚ではまったくないけれど、人間らしい自分が愛おしいと思えるのです。
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