<この体験記を書いた人>
ペンネーム:くあら
性別:女
年齢:53
プロフィール:娘が私くらいの年になった時、どんな言葉が死語になっているのか今から楽しみな50代。
娘(22歳)と夕食時にテレビを観ていた時のことです。
たまたまついていた番組で司会の方が、「ああ、懐かしいなあ。チークダンスってありましたよねえ」と話していました。
娘はきょとんとしながら「チークダンスって何?」と聞きます。
「えっ! 知らないの? ディスコで盛り上がった頃、急に照明が暗くなって、ムーデイな曲が流れて...」
「ムーディって...」
説明する私にツッコミながら笑いを嚙み殺す娘。
テレビの話題も他のことに流れ、娘は私の説明も半分聞き流していましたが、私の中で30年以上前のほろ苦い思い出が浮かびました。
大学生の頃、巷では学生主催のバスツアーのパンフレットで溢れていました。
学校の前では、女子学生にパンフレットを配る他校の男子学生が必ずいたものです。
そんなパンフレットを各種集め、休み前には友人とどのツアーでどこに遊びに行くかばかり考えていました。
ある冬休みのこと。
スキーツアーに参加することに決めた私と友人。
目的はスキーでもあり、素敵な男性との出会いでもありました。
行きのバスの中でトークで盛り上げる他大学の学生の中に、気になる人がいました。
1回生だった私にとって4回生の彼はとても大人に見えたものです。
しばらく話して打ち解け、一緒にスキーをし、3泊4日の日程の中でだんだん恋心が募ってきた私に対して、向こうは妹のようにしか思っていない様子で、何かにつけ子供扱いされました。
そして迎えた最終日。
お別れパーティと称してディスコで盛り上がり、カクテルを飲んで高揚していました。
チークタイムを前に熱気あふれる会場で、ツアー主催者側のある男子学生が、私の意中の相手に私のことを話しているのが耳に入りました。
どうもその学生が私を気に入ったようで、それに対して4回生の彼が「え〜! まだ1回生だよ? 子どもだよ?」と大きな声で笑い飛ばしていました。
それを聞き、少なからず傷ついて、聞こえないふりをして踊っていました。
それからしばらく経ち、派手に回転していたミラーボールの照明が落ち、静かな音楽に変わりました。
その場でカップルになる男女もいれば、パラパラと席に戻る人もいて、私も自分には関係のない時間だと思い、戻ろうとした時のことです。
意中の彼が私の手を取り、真ん中へと引っ張ったのです。
突然のことに訳がわからない私の頭の中は混乱するばかりで、なすがままに彼に身を任せ、心臓バクバクのままステップを踏んでいました。
先ほどの男子学生の呆れたような顔がちらちら見えます。
何分ほど経ったのか、また照明が明るくなり賑やかな音楽に変わり、パーティの終わりを告げる派手なDJの声に我に返った時はもう手を離され、彼は他の友人の所へ行きました。
ただそれだけのことでした。
その後は何事もなかったように話をし、事の真意を確かめるでもなくツアーは終わりました。
今のように携帯電話もないため、簡単に連絡先を交換することもありませんでした。
恋にさえもならなかった想いは雪のように溶け、ほろ苦さだけが残りました。
それでも今となっては、あのスキー場でだけのひと時だったから良い思い出になっているのだろうなあと思うのです。
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