<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男
年齢:58
プロフィール:地方公務員の男性です。小さな町ゆえか毎年恒例のイベントを楽しみにしている人は少なくありません。
「毎年恒例となっておりました秋のステージ祭りは、残念ながら中止といたします」
役場の広報課という仕事柄とはいえ、こういう残念なお知らせを作文するのは辛いものです。
ましてやこれがもとで長年の友人と疎遠になってしまったのですから。
「なあ、どう思う?」
高校時代の友人(58歳)が電話してきたのは2カ月ほど前のことです。
彼はなかなかアクティブな男で、小さな店を切り盛りしながら、町や商工会の様々な行事やイベントに積極的に関わっています。
その中でも力を入れて実行委員として取り組んでいた、秋のステージ祭りが中止と決まった時でした。
「感染拡大真っただ中の東京で、ってわけじゃないんだぜ。町の中で誰一人として感染者なんて出てないのにさあ...」
「そうは言っても日本中、いや世界中コロナ騒ぎなんだから、もしも、万一感染者が出たら、って考えるのは当然だと思うよ」
「いやあ、お前だって役場にいるんだから、なんとも元気がない町をどうにかしたいって思うだろ?」
「それはそうだけど...他の方法を考えるしかないよ」
「他の方法って? みんなが楽しみにしているイベントを実現する以上にいい方法なんてあるかあ?」
その日の電話はそれで終わったのですが、憤懣やるかたない雰囲気の彼の様子に嫌な予感はしていました。
数日後の休日、彼は我が家を訪ねてきました。
「やっぱり、何とか祭りをやりたいんだ。署名を集めようと思うんだよ」
嫌な予感は当たるものです。
「おいおい、そりゃ穏やかじゃないな。実行委員会で中止と決めたんだろ」
「多数決でな。反対者も少なくはないんだ」
「...もう、始めちゃってるのか?」
「いや、今は準備中で、お前に頼みたいことがあるんだ」
「俺に?」
「俺と一緒に発起人になってくれないか?」
役場の広報にいる私もイベントと無関係ではありません。
彼なりの考えとしては、役場の人間が発起人となってくれれば、町への陳情も通りやすいという説明でした。
「いや、趣旨は分かるけど...」
「だろ! なあ、友人のよしみで頼むよ」
「このご時世だろ? 安全のために決めたイベント中止をひっくり返す署名は快くは受け取られないよ」
「なんだ? じゃあ、火の消えたような町をほっとけって言うのか?」
「いやそうは言ってないけど、この署名は、コロナが流行ってもいいって言うのか? って感じの誹謗中傷の的になりかねないって。考え直した方が...」
「...もういい!」
思いとどまるように話す私を遮るように彼が言い放ちました。
「そういうことじゃないんだ! 何でもかんでもやめりゃいいってもんじゃないってことを分かってほしいんだよ、俺は!」
そう言うと激高したまま我が家を後にしてしまいました。
そんなことがあってから、時折電話やメールで取り合っていた連絡がぱったり途絶えてしまいました。
町の広報にステージ祭りの中止のお知らせを出す今の段になっても、署名を取っている話は聞かないので、結果的には諦めたようです。
中止の広報を見たらまた落ち込むだろうなあ、などと考えてしまいます。
何となく自分がとどめを刺してしまったような感覚にも襲われてしまい、こちらから連絡をするのもためらわれ、モヤモヤした日々です。
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