<この体験記を書いた人>
ペンネーム:みけ
性別:女
年齢:50
プロフィール:元役所勤めで現在自営業の50歳。
最初に就職した職場でのことで、23年ほど前、私が20代後半のころのことです。
職場の事情で私が担当することになった部署は「私ひとり」という寂しい状態でした。
「次の人事異動で誰か来てくれますように...」
そう願いながら日々を過ごしていました。
すると、願いが通じたのか、翌春の人事異動で、私の隣の席に直属の上司が!
親子ほどの年齢差がありましたが、くりくりした大きな目で良く笑う人懐こい感じの男性で、ほっとしたのを覚えています。
「もう1人じゃない」
孤独とサヨナラできた喜びで俄然やる気が沸いた若い単純な私。
勝手に2人で仕事をするイメージを膨らませていました。
しかし、現実は甘くなく、私の仕事の分量は変わらず、もちろん残業の時間も変わりません。
上司はと言えば、喋っている時間の方が長いくらいで残業はなし。
毎日「何かやる事ある? ない? じゃお疲れ~」と言って足取り軽く帰宅します。
喋る内容も私の世代では想像もつかない昔話がメインです。
明るくていい人ですが、それだけにちゃんと相手をしなければと思ってしまい、変な疲れが溜まってしまう始末。
上司を知る人達は「仕事が出来る人」と口を揃えて褒め、「そんな人に来てもらって良かったね」とまで言います。
でも、私にはピンときません。
むしろ「オジサン、仕事しろよ」と、腹を立ててばかりでした。
そんなある日、隣の課の人に書類を書いてと頼まれました。
上司がちゃんと見もしないで「はいよ」と二つ返事で引き受けたので、私にも書類が渡されました。
法律関係の書類ですが、見たこともない内容で頭が真っ白になりました。
言葉も出ず書類を眺めているばかりの私を見兼ねて、隣の課の人が具体的なイメージを言ってくれても、私の頭の中には何のイメージも沸いてきません。
泣きたい気持ちで固まっていると、上司がサラサラっと一気に書き上げました。
しかも笑いながら!
「そういう人だったのか...!」
だてに昔話のネタが豊富なわけじゃない、想像もつかない激務をこなしてきた人だったのです。
ようやく、多くの人がこの上司を褒める理由が理解できました。
ただ1枚の書類が目を覚まさせてくれたのです。
それまで、なんとなく軽く見ていた自分が恥ずかしくなりました。
本当に出来る人は自分の出番も知っていたのです。
キャリアを馬鹿にしちゃいけないと肝に銘じる誓いを立てた日でした。
その後も、上司のお喋りの時間の方が長くて残業なしというスタイルは変わりませんでした。
でも、わだかまりがなくなった私は、困った時に素直に上司に相談できるようになりました。
そんな時、楽しい話をしているように笑顔で教えてくれる上司に、心から「来てもらって良かった」と思ったのでした。
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