<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男
年齢:女
プロフィール:地方都市で公務員をしています。今から10年ほど前、初めての女性上司を迎えた時の経験です。
私は無意識のうちに「男なんだから......」とか「女らしく......」と言ってしまう方でした。
昭和生まれに染み付いたジェンダー感覚は、なかなか払拭できるものではなく、男女均等、などと声高に言われても「?」と少々不満に感じていました。
しかし10年ほど前、私が役場の広報課に勤めていたころ、女性上司(当時52歳)が転任してくることになりました。
まだ女性課長は珍しく、「なかなかの女傑らしい」と言う噂は聞こえてきましたが、どんな感じかな、と思っていました。
「この度の異動で広報課に参りました○○と申します。どうぞよろしくお願いします」
深々とお辞儀をする、若々しいイメージの新任課長は、なるほどやり手な印象でした。
「私、信条は『人はみな平等』です。男女はもちろん、年齢などでも差は付けない考えですので、ご理解ください」
まあ、基本的には賛成できる考えです。
「ウジさん、今朝はお茶当番ですよ」
「え? ああ、そうでしたね......」
今までは若い女性職員の仕事だった朝のお茶配りは交代制になりました。
来客時もこの当番がお茶を出すのですが、仕事の手を休めての給仕はなかなかに気欝な物でした。
終業時になんとなく女性職員が行っていた課内の清掃も「ちゃんと決めましょう」の一言でこれまた交代制に。
掲示板に様々な通知を貼るのは、高い位置に貼る時もあるため、まとめて若い男性職員がやっていましたが「通知は速報性が大事」と、受け取った者が貼るというルールに代わりました。
「補佐、会議の資料、そろってますか?」
そうそう、これも増えた仕事です。
課内の会議の資料準備は、原稿だけそろえて若い女性にコピーを頼んでいましたが、大事な資料は補佐が責任をもって、ということで配付までが私の仕事になりました。
しかし出来上がった広報誌の運搬や、イベント会場の設営などの力仕事は相変わらず男性の仕事でした。
同僚の中には「平等というなら、力仕事も男女平等にすべきじゃないか」と愚痴る者もいましたが、課長に「それは適材適所というものですよ」とあしらわれてしまいました。
そんなある日、課の受付で大声が響きました。
「こら、勝手に人の顔を載せやがって、どうしてくれるんじゃ!」
どうやら町のイベントの広報の写真に写っていた男性が、許可なく顔写真をさらされたとクレームをつけてきたのです。
いかにもその筋の方のような強面の勢いに、誰もが怯みました。
女性陣はもちろんのこと、男性陣もあえてそちらを見ないようにしている有様です。
私も逃げ出したいところでしたが、補佐という立場上仕方がないと進み出ようとしたその時でした。
「はい、責任者は私です。どのようなご用件でしょうか」
私の横をつかつかと進んで男の目の前に出たのは課長でした。
「なんじゃ? 女じゃ話にならねえ、上のもんを出せ!」
「広報に関しては課長である私が全責任を負います。それとも市長を出せとでも?」
一歩も引かない毅然とした態度です。
「......まあいいわ、この写真、どうしてくれるんじゃ? 勝手に人の顔をさらしやがって!」
「はあ、イベント全体の写真では、映り込んだすべての方に承諾を得ることは不可能です。何かこの写真によって不利益がございましたか?」
「不利益って......勝手にさらされてよう......」
「何か不利益があったのでしたら、市民係で申し立てを承りますのでご案内いたします」
「申し立て? そんな、めんどくせえ......もういいわ!」
吐き捨てるように去っていく男を尻目に「さあ仕事に戻りましょう。大したことではなかったようです」と何事もなかったかのような課長。
この一件以来、課長のやり方に文句を言う者はいなくなりました。
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