<この体験記を書いた人>
ペンネーム:文月奈津
性別:女
年齢:63
プロフィール:長男、次男、主人の4人家族。長男は近所で一人暮らし。主人共々体力が落ち、毎晩9時半には寝てしまう毎日です。
「4月に名古屋のあなた達の所に行った時、外で孫を追いかけて転んだのよ。肋骨が折れたらしくて、毎日痛くてしょうがないわ」
1995年の5月のある日、義母から電話でこんなことを言われました。
その4年前の1991年、次男が生まれる数カ月前から主人の勤務先が傾き、給与が支給されませんでした。
義父母に生活費が送れなくなり、私たちは義父母の住むマンションに引っ越したのです。
同居を決める前、これからの生活に不安を感じていた私は、義母が一番言ってほしくない事を言ってしまい、それ以来、義母から疎まれるようになりました。
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その後、義母は同居した翌年に義父が他界したこともあり、兄弟や友人のいる新潟へ帰りました。
そんな間柄だったので、この電話を受けたときは(転んだときが一番痛いはず。新潟に帰って1カ月ぐらいたつのに変だな)と思いながらも、その疑問を口に出すことができませんでした。
8月に義母の家に行ったときも、義母はときどき「痛い、痛い」と訴えました。
かかりつけの病院の医師は「レントゲンで見える胸の黒い点々は、骨折した跡だろう」と言ったそうです。
その後、近所に住む友人が嫌がる義母を強引に県立病院に連れて行ってくれて、末期の肺ガンだと発覚しました。
卵巣にできたガンが肺に転移していたんです。
黒い点々は、ガンだったのです。
入院した病院は付き添いが必要でした。
義姉、義妹、主人が交代で看病しましたが、9月の初め3人とも付き添えない週がありました。
私が行こうと思いました。
子供たちをかわいがってくれた義母に少しでも恩返しをしたいと思ったのです。
でも、長男は幼稚園の年中さん、次男は4歳。
24歳で母を亡くした私には子供たちを預かってくれる人がいません。
でも1人だけ、もしかしたら助けてくれかもしれない、という人を思い出しました。
母と2人で暮らしていた時期に、大変お世話になったNさんです。
思い切って電話をしたら、「いいわよ。家はたくさん手があるもの」と二つ返事で引き受けてくださいました。
N家は、Nさんの娘一家が同居していて、娘・娘婿、女の子の孫が4人、男の子の孫が1人、8人家族でした。
私は子供たちをNさんに預けすぐ新潟の病院に行き、義母の看病をしました。
私の付き添い中も、義母は、大好きな妹(私の義叔母になります)が見舞いに来ると「あなたが付き添ってくれたらいいのに」と言います。
わだかまりが溶けたわけではないため仕方ありませんね。
義母の友人の「ほら、こうして罪滅ぼしに来ているのだから......」という言葉が私の心に刺さりました。
「もともと分かっていたけれど、私なんかおかあさんにとって付添人の第7希望、来てほしくはない人なのよ」
主人に電話でつい言ってしまいました。
その時の主人の言葉が私を包んでくれました。
「すぐ帰っておいで。おまえはよくやってくれたよ。無理することはないよ」
でも、私は主人の言葉で考えました。
感謝してほしいと思って来たわけじゃない、お義母さんのために何かしたいと思ってきたのだから、何を言われようと関係ない。
自分がすべきことを一生懸命すればいいと、心が定まったのでした。
元気を取り戻した私に、ある日義母がこう言いました。
「あなたが作ってくれる水枕は、最初しっくりこなかったけれど、今はとっても気持ちがいいわ」
義母の妹さんにも、優しい言葉をかけてもらいました。
「嫁にこんなに世話になるとは思わなかった。こんなにつくしてくれたのだから、奈津さんもお嫁さんに大事にしてもらえると思うわ」
言葉にして「ありがとう」と言ってくれたわけではありません。
でもすっぱい果物が好きな義母のために買ってきた果物や、義母の家に咲いている花を摘んで作った花束を、とても喜んでくれました。
「おかあさん、名古屋に来て。また一緒に暮らしましょうよ」
そう言った私に「行くよ」と答えてくれた優しい義母。
私が名古屋に帰った一週間後、1995年9月23日に義母は亡くなりました。
まだ68歳でした。
あれから25年経ち、数年経てば私も義母がなくなった年齢になります。
そのせいでしょうか、ふとした時に義母のことを思い出し、うれしいような切ないような気持ちになるのです。
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