<この体験記を書いた人>
ペンネーム:色男
性別:男
年齢:58
プロフィール:結婚27年目の58歳の男性です。妻(56歳)とは職場でお世話になった方の仲立ちで一緒になりました。
「あっけないもんだな、人間ってさ」
「え?」
「いや、職場で一緒だった頃はとにかく圧の強い人だったじゃないか、彼女」
「そうね」
「君ともこっちの都合なんかお構いなしの見合いセッティングだったし......ま、今となっては感謝してるけどね」
私たちの仲人をしてくれた元上司の女性Aさん(86)が亡くなったのは、昨年秋のことでした。
27年前、当時アラサーだった二人の出会いを仕組んでくれたのも彼女でしたし、結婚後も何かと気にかけてくれた恩人です。
弔問の帰り、ふと思い出話を始めると、当時のことが甦りました。
「あなた、次の日曜日、時間取れる?」
それは時代が平成にかわって5年ほど経ったころのことでした。
役場に勤めて10年ほど、中堅と呼ばれ始めた私の自宅に突然の電話が入りました。
電話の相手は、以前の部署の上司だったAさん(当時50代後半)です。
「え? 日曜ですか? いや、まあ、空いてはいますけど......」
「じゃあ、いいわね。うちの課のイベントが文化センターであるから、手伝ってほしいの」
「は? あの、僕は今は税務課なんですけど......」
「そんなこと知ってるわよ。私が都合がつかなくなったから、個人的なお願いなの。日曜日、9時に文化センターよ。よ、ろ、し、く」
ぶしつけで強引なのは以前の通りでしたが、まさか異動してもこき使われるとは、と辟易しました。
しかし、世話になった方なので無視もできませんでした。
「ああ、体のいい休日出勤じゃんか、しかもボランティアかよ、トホホ」
そんなことを思いながら日曜日を迎えました。
「色男さんですか? 今日はありがとうございます。よろしくお願いいたします」
深々とお辞儀をして迎えてくれたのが、当時、Aさんの下で働いていた妻でした。
「助かります。一人でブースを回せる自信がなかったもので」
「まあ、昔取った杵柄ですから、お役に立てるといいんですけどね」
「ありがとうございます!」
はきはきとして印象のよい女性だなと思いました。
謙遜していましたが、結局は一人できちんとブース運営をこなし、私は本当に助っ人程度でした。
「助かりました。さすがは色男さんですね、課長からお話を伺ってました」
「いや、あなたも素晴らしいですよ。僕はいらなかったようだ」
「そんなことありません。心強かったです」
その日の夜、またAさんから電話がありました。
「お疲れさま。さすがあなたね。うまくやってくれたそうね」
「いや、担当の女性、堂に入ったもので、僕は不要でしたよ」
「でしょ? いい子なのよね......どう、気に入った?」
「へ?」
どうやら見合いということだったようです。
何となく断り切れずに付き合い始め、結果、ゴールインしました。
「無理やり見合いだったものなあ、お互い」
私がそう言うと、妻は何やら言いたげな様子です。
「まあ、君も断り切れなかったんだろ」
すると我慢しきれないように「実はね......」と話し始めました。
「あれ、私が頼んだみたいなものなの」
「は? どういうこと?」
「私、転職で役場に入ったじゃない? もう30近かったし、いい人いないかなあって思ってたのよ」
「で、Aさんに紹介してもらったってこと?」
「そうじゃなくて、あなたが窓口でお年寄りに丁寧に説明してるところを見かけて、あ、素敵な人だな、って思って、上司に聞いてみたわけよ。あの税務課の方、知ってますか? って」
「そしたら、元はこの課にいて、去年までは部下だった...って聞いた?」
「そういうこと! で、彼女からあなたがすごく優しくて、気の利く人だって教えてもらって......」
「いや、照れるね」
「ふふ、で、じゃあセッティングしてあげる...ってわけ!」
無理やり見合いでお互い断り切れず、と思っていたのは、私の方だけだったようです。
それを最後まで言わないとは......Aさんにはやっぱり敵わないな。
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