<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ちもて
性別:女
年齢:52
プロフィール:子育てはほぼ終了、勝手気ままに暮らしたいほぼほぼ主婦。
80代の母は、10年ほど前に父を亡くしてから1人で暮らしています。近くに兄夫婦も住んでいて、しょっちゅう顔を見せてはいるものの、毎日寂しい寂しいと言っていました。当初は自宅で簡単なお店をしていたので、お客さんと話して気を紛らわせることもできたのですが、軽い認知症のような症状が現れたことを心配して、お店をたたむことにしたのです。幸い認知症はたいして進行することもなく今に至っているのですが、お店もなくなって母はますます気落ちしていまいました。
父が元気なときに飼い始めた柴犬も、父がいなくなったことのストレスでだんだん目が見えなくなってしまい、それも母を悲しませる一因にもなりました。「クー(犬の名前)が死ぬまではわしは死なないからな」と口癖のように言っていた父を思い出しては「クーより先に死んでしまうなんてじいちゃんは嘘つきだ」と犬に話しかけては泣いていました。
犬も年をとり、歩きたがらなくなり、散歩に出ることもなくなった母は、日に日に動くことが少なくなりました。それに伴って食欲もなくなり、ただベッドに横になってテレビを眺めているだけの日々が続きました。1人で入浴しようとして転倒したのを心配してデイサービスの利用をすすめても「行きたくない」の一点張りです。だんだん痩せてきて、気力の感じられない母を見て、これはいよいよ入院でもさせないといけないのでは?と兄とも相談していた頃、愛犬クーが亡くなりました。
愛犬の死を悲しむ以上に母のことが心配で、兄妹で毎日母の元に通いました。ところが早く母に元気を取り戻してもらおうと、犬の写真を飾っていると「写真を見ると思い出して悲しくなるから、飾らないで」と言うではありませんか。まあ、それもそうかと思い飾るのをやめました。
それから母は自分から犬の話をすることはほとんどありませんでした。こちらから話をふると涙ぐみますが、テレビを観て笑うことも多くなり、何より驚いたことに「デイサービスへ行ってみたい」と言い出したのです。
デイサービスに行くようになった母は、そこでの話を楽しそうにし、動くことで食欲も出て、何より生き生きとしてきました。父のことでメソメソとすることもめっきり減り、時折犬の話をしては涙ぐみ、けれどすぐにテレビを観て笑う、父が生きていた頃の母に戻ったようでした。
兄と「まるでクーがばあちゃんの悪いところを全部持っていってくれたみたいだね」と話していると、「なんのこと? 悪いところなんて一つもなかったよ?」と、とぼけた答えを返すのも昔の母のようです。それどころか「そろそろまた犬でも飼おうかな」と言うので、それは兄と全力で止めました。
あとどのくらい一緒にいられるかわからないけれど、今しばらくこんな平穏な日々が続いてくれたら幸せだなあと思うこの頃なのです。
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