<この体験記を書いた人>
ペンネーム:fennel
性別:女
年齢:55
プロフィール:地方在住の専業主婦。残りの人生、いかに生き抜くかを模索中です。
私の母は80歳。
元気に一人暮らしをしています。
娘の私(55歳)は安否確認のため、時々母の家を訪れています。
母は明るい性格で友人も多く、交通安全活動やボランティア、趣味のサークルの講師など、とにかく日々目まぐるしく動いています。
もちろん認知症などまったく無縁です。
娘として嬉しく、また頼もしく感じる一方で、厄介なのが「頑固で自分の意見は決して曲げない」ことなのです。
私たちが住んでいるところは田舎なので、当然移動手段は自家用車。
身長が低い母は運転席に座布団を敷いて座っていますが、正面から見るとハンドルからギリギリ顔が出るか出ないかぐらいの状態で運転をしています。
そんな格好で運転をしていて、前後左右の安全確認に支障はないのかといつも不安になります。
私が運転をしている時、たまに母の車とすれ違うことがあります。
「さっき病院の前ですれ違ったよね? 気付いた?」
「そんなの全然知らない。だって私はまっすぐ前しか見てないし、そんなわき見運転なんかしていないもの!」
軽く話題にしただけなのに、母は少しキレぎみに反論します。
なにも私に気付いて手を振って欲しいと思って聞いた訳ではありません。
本当に周りの状況を常に注意深く意識しながら運転できているのかと、不安になるのです。
だって、車の運転はまっすぐ前だけを見ていればいいわけではありませんから。
母の家を訪ねる時は、必ず駐車場に停めてある車をチェックするのですが、そのたびに、私の不安は大きくなるばかりです。
後ろのバンパーのこすり傷やへこみ、ドアミラーの傷...小さな傷がどんどん増えている気がします。
1年前はピカピカの新車だったのに、母に選ばれてしまったこの車が不憫でならず、ため息しか出ません。
しかし、この程度ならまだため息で終われますが、いつか大事故を起こしてしまうのではないかと冷や冷やしています。
しかし、母は私のそんな気持ちを知りません。
テレビで『高齢ドライバー、店舗に突っ込む! またアクセルとブレーキの踏み間違いか⁉』などというニュースを見ると「バカだねぇ、なんで間違えるかね?」とまるで人ごとのように笑います。
そんな態度を見るとついムカッとして厳しく言ったこともあります。
「自分だっていつこうなるかわかんないんだよ! 車傷だらけだし。事故を起こしてからでは遅いんだよ!」
そして、何度も免許返納をするように説得するのですが、母も引く気はありません。
「んじゃ、車が無くなったら病院や買い物はどうやって行くんだ? 歩いてなんて行ける訳ないし、毎回タクシーなんて使ってたらお金がいくらあっても足りないし、バカくさい。あんたに毎回頼むわけにもいかないでしょ!」
確かにその通りで、私が母の専属ドライバーになるのは現実的に難しいです。
母が住んでいる家は賃貸ですが、一戸建てでちょっとした庭もあるため気に入っていて、もっと交通の便がいい場所に引っ越すという考えはないようです。
結局、毎回打開策を見い出せないまま、うやむやになってしまいます。
地区ごとに乗り合いタクシーなども運行されていますが、母の住んでいる地域で、今後乗り合いタクシーが運行されるかどうかはわかりません。
高齢ドライバーの事故の多発、とりわけ車社会の田舎では待った無しの問題であるにもかかわらず、いつまでたっても解決できないでいるのが現状です。
娘としては、どうか母が今日も事故を起こさずに、無事に1日が終わりますようにと、ひたすら願う日々です。
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