<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男
年齢:59
プロフィール:初めて一人暮らしをした学生時代、コロナ禍ほどではないにしても、人恋しさに膝を抱く日はありました。
「コロナ禍では学生さんも大変だなあ」
「大学に全然行けないって、進学した意味ないわね」
テレビのニュースを見ながら妻(56歳)と話していました。
「誰とも会わない日が続いて精神的に参っちゃうわよね」
「だよなあ...寂しいと、思わぬ方に行っちゃうもんだよなあ...」
そんな話をいていると、40年ほど前の忌まわしい思い出が蘇ってきました。
私は地方の大学に入学を決め、一人暮らしが始まりました。
住み慣れた家を離れたせいもあって、大学生活へのワクワク感よりも不安の方が大きかったのを覚えています。
それに大学に知り合いがいるわけでもないので、誰とも口を利かない日も珍しくありませんでした。
そんな頃、一人の青年(20歳ぐらい)に出会いました。
学内で何やらパンフレットを配っていて声を掛けられました。
「これからの社会には新しい価値観が必要なんだよ」
そんな話をまくし立てられました。
人恋しさもあり、何となく「新しい価値観」なんてあたりにも若気の至りで心をくすぐられて「面白そうですね」と興味を示してしまいました。
するとその青年は私に脈ありと思ったようです。
学内でも頻繁に声を掛けられるようになり、授業中にも私の横に座って話し続けます。
先輩なのかと思っていたら、どうも学生ではないようで、勝手に入り込んできているようでした。
「やあ、こんばんは!」
突然アパートにも現れました。
どうやらこっそりと後を付けられていたようです。
「仲間の集会があるんだ、来てみないか?」
しつこく誘われ続けました。
夜討ち、朝駆けとばかりに四六時中、いつも突然に現れます。
「新しい社会を作る力になってくれ! 仲間と一緒に活動しよう」
興味を示したことを心底後悔していました。
ほとんどノイローゼ状態になっていたころ、ばったりとその青年の姿を見なくなったのです。
ほっとしたものの、またいつ現れるかも分からないので、ドキドキは収まらず...。
とはいえ、その頃には同じ授業の友達も数人できていて、一緒に昼食をとるようになっていました。
「そう言えばさあ、学内になんだか腺病質な感じの兄ちゃんがいたじゃんか」
ある昼食時、食事の話題とばかりに友人の1人が言いました。
「ああ、知ってる。なんだか危ない雰囲気の奴だろ?」
「最近見ないよな」
話題になっているのはあの青年だとすぐ分かりました。
「あれさあ、なんか新興宗教の勧誘員だったらしいぜ」
それを聞いて思わず箸が止まりました。
「なんかこう騙しやすそうなやつを見つけては、グループの合宿所におびき寄せてさ、そこに行ったら洗脳されちゃうんだって!」
「洗脳って?」
「日雇い仕事みたいのをさせられて、儲けは全部教団に吸い上げられるとかって話...」
震えが止まりません、危うく私もその合宿所に入りかけていたのです。
「...合宿所を脱出した人が警察に駆け込んだらしくてさ、グループごと捕まったらしいってよ...」
噂話をする友人達は、よもやま話として盛り上がっていましたが、わたしは腰が抜けそうでした。
そんなことを思い出すと、コロナ禍の学生の孤独も他人事ではありません。
「苦しい思いをしている人達も、変なところに救いを求めないといいけどなあ...」
「変なところって、何よ」
妻がいぶかしげに聞き返してきました。
「いやまあ、溺れる者は藁をもつかむ、って話だよ」
命拾いした経験を思い返しながらニュースを見ていました。
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