<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男
年齢:58
プロフィール:地方公務員です。この春、中学校で働き始めた娘(25歳)は4度目の挑戦で教員採用試験を突破しました。
2年前、娘(現在25歳)は3度目の教員採用試験に失敗しました。
大学を出てから非常勤講師として経験を積みながらの挑戦は、はたから見ていても大変そうでした。
「やっぱり無理なのかなあ...」そう呟きながら考え込んでいる時間が長くなっていました。
その頃、映像系の大学の4年生だった息子(現在23歳)が突然帰省してきました。
「どうした? 冬休みには早いな」
「いや、ドキュメンタリー制作の課題があってさ...姉ちゃん、久しぶり!」
「...なに、あんた、どうしたの? いいわねえ、学生は気楽でさ...」
「お言葉ですが、これも学習でしてね」
おどけて見せる息子でしたが、娘はつれない素振りでした。
「...やっぱ結構落ち込んでるねえ」
息子も採用試験の結果は知っているので、しょうがないなという素振りです。
「まあ3度目だからな...で、わざわざ帰省しての取材って、どんなテーマなんだ?」
「まあ、今の自分を形作ったものは何か、ってとこ。さっそく取材していい?」
そう言って生まれた頃や、子どもの頃の話などを私や妻(現在56歳)にインタビューしていきました。
「じゃあどうも。他にも取材の約束があるんで...」
息子は翌朝、そう言って早々に引き上げていきました。
「全く余韻も何もあったもんじゃないね」
弟を見送りながらボソッとそう言うと、娘は相変わらず覇気のない様子で仕事に出ていきました。
しばらくしてDVDが送られてきました。
『私を形作った者たち』というタイトルの作品には「姉ちゃんにも見せてね」とメモされていました。
「...なんで私も見るの?」
「まあせっかく弟が送ってきたんだから一緒に見ようよ」
気乗りしない様子の娘も一緒に、家族3人で鑑賞会をしました。
最初は私たちのインタビューですが、自分たちの話は当たり前ですが新鮮ではありません。
「...あんまり面白くないね」
「まあドキュメンタリーなんてこんなもんだろ?」
「知っている話ばかり聞かされてもさあ...」
なんとも冴えない表情の娘に、息子の真意を図れずにいましたが、画面が切り替わると娘が急に身を乗り出しました。
「あっ...」
そこには娘もお世話になった小学校の先生が登場していました。
「あなたは根気はなかったねえ、お姉ちゃんと違って」
そう言って笑う先生が映る画面を見つめながら「根気、かあ...」とつぶやく娘。
場面が変わると、また見覚えのある顔が映りました。
「あれ? ○○先生!」
そこに映っているのは息子もお世話になり、娘が英語教師を目指すきっかけとなった中学校の恩師の姿でした。
「お前の英語は...ひどかったな」
そう弟に言うのを聞いてクスッと娘が笑いました。
「先生、変わんないなあ......」
先生へのインタビューは続きます。
「先生はよく歌を聞かせてくれましたよね」
「その話か? 恥ずかしいな」
「いやあ、美声に聞きほれました。とは言ってもほとんど洋楽ばっかりで、俺の発音を聞けって、ね」
「生きた英語ってやつだよ」
「日本の歌は、歌わないんですか?」
「いや、ドリカムとか好きだよ。『何度でも』がいいね」
「なぜですか?」
「お前なんか特に分かるんじゃないか? うまくいかないことってあるもんだろ?」
「そうですね。中学校の英語なんかは特に」
「まったく...まあそんな時に、次こそはって信じることが大事だ。歌でもあるだろう? 1万回ダメでも1万1回目がきっとあるんだよ」
恩師の話にじっと耳を傾ける娘は、少し吹っ切れた表情をしていました。
見終わってから息子に電話してみると「少しは役に立ったかな? 姉ちゃん落ち込んでると思ったからさ。いいテーマだったろ?」と少し恥ずかしそうに言うのでした。
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