<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男性
年齢:60
プロフィール:地方都市の役場職員として定年退職を迎えましたが、このご時世、悠々自適とはいきません。
2022年3月、37年の勤続をもって定年退職しました。
若い頃は定年を迎えたら悠々自適なライフを夢見ていましたが、定年延長も間近に迫るご時世ではそんな余裕は許されません。
4月から私は再任用となりました。
定年退職後も任用継続を希望する場合は、5年を限度に可能とする制度です。
65歳定年制導入までの経過措置でしょうが、まだまだ現役には負けない気概の身としては、制度利用に迷いはありませんでした。
退職時の部署にそのまま配属となったので、一見何も変わりません。
大きく変わったのは職務内容です。
「若年層職員への助言、補助作業...か」
退職前と同じ広報課にいながらも、今までのように一人で取材に出かけたり、記事を書いたりすることは原則的にはなくなりました。
再任用しての最初の仕事は、新しく広報課配属になったAさん(30代半ば)の補助に当たることでした。
Aさんはもともと土木課にいた方です。
「俺、文章を書くのはほんと苦手なんすよ」
堂々と言われては身も蓋もありません。
Aさんは意に沿わぬ異動にいかにもやる気を失っているようでした。
試しに記事を書いてもらいました。
試しと言っても写真に一言添える程度のキャプション記事です。
田植えの準備をする農家の方の写真だったのですが...。
「田植え前、苗の準備」
とだけ書いて持ってきました。
「これは文章じゃなく、箇条書きですね。文章にしましょう」
できるだけソフトに助言したつもりでした。
「ほんと苦手なんすよね。なんか雛形ってないんすか?」
そう言ってくるので、ひな祭りのときの保育所のキャプションを示しました。
「ハウスに並ぶ苗箱を見て、楽しそうな農家の笑顔がこぼれました」
まさか、そっくり同じ文章にするとは...言葉に詰まってしまいました。
これはもうしょうがないと思い、まずは私がやって見せようと考えました。
初稿の締切も近かったので、私が書いたものを校閲に回しました。
すると、課長(50代後半)に呼ばれました。
「だめですよ、ウジさん。これ、Aさんの文章じゃないでしょ?」
「よく分かりましたね」
「Aさんの不満は知ってますよ...でもね、Aさんの肩代わりをしてもらっては...」
Aさんをなんとか広報課の一員として鍛えたい課長としては、Aさんの文章を出してほしいのはよく分かります。
「いや、まずはやって見せてと思って...」
「ウジさん、再任用なんだから...出しゃばっちゃだめですよ」
ピシャリと釘を刺されてしまいました。
再任用ってそういうことなんだ、となんとも複雑な気持ちでした。
やむなくもう一度Aさんに文章の再考を促します。
「雛形は参考程度にしてもらってね...」
「え~? どうせ真面目に読んでる人いないすよ、こんな小さな記事。そっくりじゃだめなんですかあ?」
開き直られてしまいましたが、引くわけにもいきません。
「いや、こういうのを気にする人って少なくないんですよ、農家の人を子ども扱いしている、とかクレームが入ることもあるんですよ」
「暇なやつもいるもんすね。そんなのほっといてもいいと思いますけどねえ...」
いや、そもそも、お前の文章力の問題だろ、と言いたくなるのをぐっとこらえるのに苦労しました。
「...私が書いた文を...いや、そっくりはまずいけど...見ながらでいいから、チャレンジしてみましょうか」
「はあ、めんどいすねえ...」
いかにもめんどくさそうに原稿用紙に向かうAさんを見ながら、初任者のほうがよほど扱いやすいと思ってしまいました。
気長にやっていくしかないとは思いますが、イライラしながらやる気のない同僚の尻を叩かなければならない、微妙な立場の息苦しい日々に気鬱になっています。
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