<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男
年齢:59
プロフィール:田舎暮らしはいいものですが、良くも悪くも自然と共存しなければなりません。
我が家は、ぽつんと一軒家、というほどではありませんが、なかなかの田舎にあります。
路線バスは20年も前に乗客不足で廃止になり、車なしでは生活できません。
山と畑の中に住居が点在している感じですが、雑踏嫌いの私には住みよい場所です。
こんな環境ですので、家の周りには野生動物が良く現れます。
タヌキやリス、ハクビシンなどがしょっちゅう顔を出し、和ませてくれるのですが、最近やたらに増えてきた厄介者がいます。
イノシシです。
私の家でも庭の隅に家庭菜園を作り、子どもが小さい頃は芋を植えたり、トマトを作ったりしていました。
ところがここ10年ほどは植えても植えてもイノシシの餌食になるので、最近はもう野菜作りをあきらめてしまったほどです。
「いやあ、うちもやられちまって...」
「私んとこも...」
近所の人が集まるとついついイノシシ被害の自慢話の会のようになってしまいます。
特に近所で一番大きな畑を持っているAさん(48)は深刻そうでした。
「なんとなしなきゃ」ということで、近所の人が共同でイノシシ防除の電気柵を張ろうという話になりました。
そこで2020年の秋、Aさんが農協に相談に行ってくれました。
近所の家をひっくるめて山側に電気柵を張ろうという計画で持ちかけたのですが、示された金額はかなり大きく、割り勘にしてもかなりのものになります。
「ちょっと考えさせてくれ」
躊躇する家が多く、いったん持ち越しとなりました。
ところがしばらくしたら、Aさんの畑の周囲だけをぐるりと囲む電気柵が出来上がってしまいました。
「いやあ、うちも生活かかってっからさあ、うちの畑の分だけならと思って清水の舞台から飛び降りたんだわ」
Aさんは満足げな表情で語っていました。
しかし、それが事態の悪化を招いてしまうのです。
「前よりイノシシが来るようになった」
「畑ばかりか花壇まで踏み荒らして...」
近所の家々でこんな声が起き始めたのはそれから間もなくでした。
我が家も今までは手を(足を?)出されなかった生ごみを捨てる容器や、植木の根元まで掘り返されるようになったのです。
「Aさんだけ畑を囲っちまったから、周りの家ばかりに来るようになったんだ」
そんな声が出るのに時間はかかりませんでした。
「こうなったら、山側の電気柵を急ぐしかない」
もう一度Aさん含めて、話し合いを持つことにしましたが、Aさんは納得しませんでした。
「うちはもう困ってないから、結構だ」
計画している柵のかなりの部分がAさんの畑に沿うようになるので、Aさん抜きでは話が進みません。
「そんなこと言われても、もう山側全部に柵を張る必要はうちにはないからなあ。やるって言うなら止めはしないけど...」
もともと畑を守るために一番積極的で、負担も多めにすると言ってくれていたAさんが抜けるとなれば、費用的にもなおさら厳しくなってしまいます。
「畑を囲う分の長さの柵があれば、残りをみんなで出し合えば山側全部に張れたのになあ...」
「なんでさっさとやっちゃったのかねえ」
Aさんの行いは生業のためには必要だとは思いますが、地域で集まってやろうとしていた矢先だっただけにしこりが残りました。
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