高級品を身近な存在にするメリット
コンビニやマクドナルドのような店舗は身近な場所にあり、手軽にアクセスできるため、多くの人々が日常的に利用します。こうした場所で提供されることで、消費者は手軽な価格でゴディバの味を楽しむことができ、「プチ贅沢ご褒美」という欲求を満たすことができます。
一方ゴディバは、高級品であるがゆえに消費者の日常から忘れられるというリスクを避けることができます。まさにWin-Winというわけです。
もっとも、コンビニで販売されている他のスイーツと比べると、ゴディバの商品の価格は高めです。
2023年5月からローソンで発売された「Uchi Café × GODIVA カラメルショコラロール」は397円(税込)、2023年9月から発売の「Uchi Café × GODIVA どらもっち ドゥーブルショコラ」は376円(税込)。2023年5月から全国のコンビニで展開された「カカオ72% ダークチョコレートソルベ」は475円(税込)でした。
コンビニで300円以上のスイーツといえば結構高いという印象ですが、自分へのご褒美として「プチ贅沢」を味わうためなら、消費者はお金を払うのです。
前述のシュシャンさんは「2010年代に入り、人々は気軽に色々な場所で『小さなラグジュアリー体験』を求めるようになった。私たちはお客様目線でアクセシブルなラグジュアリーを提供している」と述べています。その狙いが当たり、ゴディバの売上は2010年からの7年間で3倍になったそうです。
ゴディバの快進撃は止まらず、2023年8月にオープンしたパン屋「GODIVABakery ゴディパン 本店」(東京・有楽町)はオープン前夜から客が並び始め、11時の開店時には200人を超えました。
ベルギーワッフルやチョコレートドリンクなど、手土産やご自分へのご褒美にぴったりの商品を販売する駅ナカ店「GODIVA GO!(ゴディバ・ゴー)」など、新事業も続々と生まれています。
ただしこのような戦略は、これまで築いてきた高級ブランドのイメージを損なってしまうリスクもあるので注意が必要です。
ドーナツ離れをプチ贅沢な共同開発商品で克服
かつて手土産の定番商品のひとつだったドーナツですが、健康志向で糖質を気にする人が増えたため、2010年代において市場は減少の一途をたどっていました。 調査会社の富士経済(東京・日本橋)によると、2010年で1321億円だったドーナツチェーンの市場規模は17年に950億円程度にまで落ち込んだといいます。
ドーナツチェーンの最大手であるミスタードーナツ(運営会社:株式会社ダスキン)も例外ではなく、売上の不振から2014~ 17年にかけて赤字を記録しました。
そんな中、「持ち帰り専門」の新業態の強化や不採算店の閉鎖などと並行してミスタードーナツが力を入れたのが、「misdo meets」という他企業との「共同開発商品」の販売でした。
他の企業の力を借りてプチ贅沢なドーナツを共同開発することで、ドーナツ離れを克服しようと考えたのです。
そして、この狙いは見事に当たりました。コロナ禍の持ち帰り需要の増加もあり、ミスタードーナツの業績は大きく改善したのです。
コラボ相手先はピエール マルコリーニやヴィタメール、Toshi Yoroizuka など、有名スイーツブランドが多いですが、最も歴史が長いのが、2023年で7年目を迎えた祇園辻利(ぎおんつじり)です。
祇園辻利は、京都で1860年創業した宇治茶専門店。毎年春になると売り出される「misdo meets 祇園辻利」は、和とドーナツの融合で話題を呼び続けています。
初年度の開発中、祇園辻利は「商品に使用する宇治抹茶に着色料や保存料を混ぜないでほしい」とミスド側に強く要望。宇治抹茶は光に弱く、電球の明かりが当たっただけでも変色してしまうため、かなりの難題だったようです。
しかしミスタードーナツ側はあきらめず、ドーナツを遮光用のスリーブで包み、さらに包装用の小さな箱に入れるといった解決策を提案し、両社のコラボがスタート。多くのファンを抱える毎年恒例の人気企画となりました。