私たちは毎日身のまわりの「便利なモノ」のおかげで快適に暮らしています。でもそれらがどういう仕組みなのか、よく知らないままにお付き合いしていませんか?
身近なモノに秘められた"感動もの"の技術をわかりやすく解説します!
※この記事は『身のまわりのすごい技術大百科』(KADOKAWA)からの抜粋です。
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前の記事「インクジェット用紙は「化粧」によって種類が異なる/すごい技術(41)」はこちら。
ノーカーボン紙
複写式の領収書や納品書を受け取ると、ノーカーボン紙が利用されていることが多い。手が汚れず便利な紙だ。
ノーカーボン紙は生活のさまざまなシーンで利用されている。銀行の振込用紙や宅配便の伝票など、控(ひか)えが必要な場所で活躍している。
ノーカーボン紙があるなら、当然カーボン紙もある。例えば宅配便の伝票で、自社用控えにこれが利用されている。1面の裏にカーボン(炭の粉)を塗り、筆圧で2面の紙に印字する方式だ。このしくみからわかるように安価だが、触ると手が汚れる場合がある。
カーボン紙で手が汚れるという問題を解消する製品がノーカーボン紙だ。1953年に米国で発明された製品だが、どのようなしくみなのだろう。
ノーカーボン紙にはミクロン単位の大きさのマイクロカプセルが利用されている。ペンの筆圧が加えられると、1面の裏面に塗布してあるカプセルが壊れ、中に入っている無色の発色剤が染み出す。すると、2面表に塗ってある顕色剤と化学反応し、色が現れる。これが控えの紙の文字になる。
この発色のしくみから、「消せるボールペン」で調べたロイコ染料と顕色剤の組み合わせが思い起こされる。実際、マイクロカプセルに入っている発色剤はロイコ染料の一種なのだ。ただし、「消せるボールペン」のインクとは異なり、ノーカーボン紙の場合は普通の温度では変化しない性質のものを利用する。ゴムでこすって消えては困るからだ。
関連記事:「摩擦熱で無色になる! 消せるボールペンのからくり/すごい技術(32)」
ノーカーボン紙と同様の印字のしくみは、熱転写用紙にも活用されている。熱転写用紙はFAXやレシートの用紙に利用されているが、プリンターヘッドの熱パターンがそのまま転写される用紙である。紙表面に発色剤と顕色剤を混合しておき、熱でこれらふたつを化学反応させるしくみだ。
カーボンを使っていないという意味で、ここで調べたノーカーボン紙とは異なる方式のノーカーボン紙も存在する。パイロットが実用化したプラスチックカーボン紙だ。プラスチック層にインクを含ませた構造を採用し、手が汚れないように工夫されている。