【らんまん】主人公が抱いた「強烈な違和感」に視聴者もモヤモヤ...今、噛み締めるべき「重要なセリフ」

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「今の時代に通ずる万太郎の言葉」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

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長田育恵作・神木隆之介主演のNHK連続テレビ小説『らんまん』の第22週「オーギョーチ」が放送された。

今週は、不穏な時代の空気感から「新しい戦前」とも言われる現在に重なる、切実かつ重要な展開が描かれた。

植物学教室に助手として呼ばれた万太郎(神木)だが、徳永教授(田中哲司)は標本を充実させることだけに注力しろと指示する。まるで人が変わってしまったような徳永だが、ドイツ留学で惨めな思いをした徳永は、植物学を「勝ち負け」でとらえるようになってしまっていたのだ。そんな中、助教授の大窪(今野浩喜)からは万太郎の研究はもう古い、今は顕微鏡で植物の営みを見る次の段階に入っていると指摘される。かく言う大窪も、離職されていたのだった。

一方、みえの料亭「巳佐登」は岩崎弥之助(皆川猿時)、陸軍大佐・恩田(近藤公園)ら得意客で大賑わい。あちこちの座敷で引っ張りだこの芸者を呼ぶため、みえは心付けをはずむなどの工夫を凝らし、芸者が到着するまでの場つなぎとして、寿恵子(浜辺美波)が八犬伝の講談を披露するなど、才覚を見せるように。やがて寿恵子は、みえから「田舎のほう」(!)渋谷で商売を始めないかと提案される。

しかし、一方ではこうした賑わいの背景で、心付けをたっぷりもらった仲居たちが、戦争特需で紡績工場が儲かっていることを喜ぶ姿、日本がようやく世界に並び、追い抜く時代が来たと岩崎らが浮かれる姿が描かれる。日本が力を持ち始めているということは、つまりその足元で踏みにじられる存在が出てきているということだ。

そんな中、菊くらべの「ノジギク」以来万太郎に関心を寄せる岩崎の推薦もあり、里中(いとうせいこう)と恩田が台湾に行く学術研究員として万太郎を指名する。1895年に下関で日清講和条約が締結され、台湾が日本に割譲されたことで、国力増強のために台湾の植物を調査するというのだ。

全ての植物を解き明かしたい万太郎にとって、国費で台湾出張ができるのはありがたい条件だが、その国の言葉を学んでから出発したいという思いを否定され、日本の言葉で話すこと、ピストルを買うよう言われたことに、万太郎は強烈な違和感を抱く。そんな中、ピストルは持って行かないと言う万太郎に寿恵子が「お守り」として渡したのは、『日本植物志図譜』だった。

万太郎が台湾に旅立った後、ある青年が長屋を訪ねてくる。なんと万太郎の土佐の植物採集の案内人で、新種の植物発見や植物学仲間を得たきっかけともなった虎鉄(濱田龍臣)だった。あれから10年、24歳の青年となった虎鉄は万太郎の助手になるために上京したと言い、長屋に住み始める。

そこから3カ月後、台湾から万太郎が帰国。ゼリー状のデザート「オーギョーチ」を食べながら、万太郎は台湾の案内人・陳志明(朝井大智)と台湾の人々、オーギョーチに命を救ってもらったと語る。陳が万太郎を懸命に看護し、救ったのは、大事に携えていたのがピストルではなく『日本植物志図譜』だったから。おそらく周囲に制止されつつも、台湾の言葉で挨拶し、相手の名前を聞いた万太郎のスタンスとつながり、信頼が生まれた瞬間だったのだろう。

一方、波多野(前原滉)と野宮(亀田佳明)は、ついにイチョウの精虫(運動する精子)を発見。万太郎は二人の快挙を喜び、徳永はこれで世界の頂点に立てると咽び泣く。この発見自体は素晴らしいことなのに、「ドイツを見返してやる」「今こそ日本人であることを誇りに思う」といった視点にモヤモヤした視聴者は多かったろう。

そんな中、万太郎は自分自身の進む道として、まだ発表されていないオーギョーチの植物に台湾での呼び名を加えて発表する。細田(渋谷謙人)は大反対するが、万太郎は国が言葉を押し付けようとする現状を理解しつつ、「だから永久にとどめる、学名として」と宣言。

台湾で生々しい戦争の傷跡を見てきたと振り返り、強い口調でこう語る。
「人間の欲望が大きうなりすぎて、ささいなもんらは踏みにじられていく。じゃけ、わしは守りたい、植物学者として」「わしはどこまでも地べたを行きますき。人間の欲望に踏みにじられる前に、全ての植物を明らかにして、そして永久に図鑑に名前を刻む」

これは万太郎が幼少期から語り続けている「雑草というものはなく、植物1つ1つに名前があり、役割がある」に連なる発言だ。そして、植物と同様、人間もまた、人種や性別、年齢など関係なく、上下などないとする万太郎らしい考え方である。

「新しい戦前」を生きる我々がもう一度噛み締めるべき大事なことを万太郎の言葉、生き方に見た気がする第22週だった。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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