【らんまん】「冒険」を始める者と、終える者...ここまでの「積み重ね」が生きる濃厚な物語終盤

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「冒険を始める者と終える者」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

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長田育恵作・神木隆之介主演のNHK連続テレビ小説『らんまん』の第23週「ヤマモモ」が放送された。

本作も残り3週。

今週は牛久保九兵衛(住田隆)は真打ちとなり、十徳長屋を「卒業」していく。同じ日、竹雄(志尊淳)と綾(佐久間由衣)が土佐を引き上げ、上京し、食事と酒を楽しめる屋台「土佐」を開く。竹雄はどうしても新しい酒を造りたいという綾の夢をかなえてあげたかったのだ。

その屋台に万太郎(神木)と寿恵子(浜辺美波)に加え、波多野(前原滉)と藤丸(前原瑞樹)も駆けつけ、再会を喜び合う。万太郎と竹雄、藤丸、さらに丈之助(山脇辰哉)も交えて長屋で集ったり、牛鍋をつついたりしていた日々が懐かしい。

さらに今は新たに虎鉄(濱田龍臣)も加わった。竹雄-寿恵子-虎鉄という万太郎の3代にわたる助手が勢揃いするのは新鮮である。一方で、新しい酒を造るために醸造の研究をしている先生を探しているという竹雄と綾に、藤丸は二人が造る「新しい酒」を注文する。日本には現状研究者がいない。しかし、自分が研究してきた菌類と醸造は異なり、一からの勉強になるが、海外の研究はあるかもしれず、そうした本を読むなら自分にもできるのではないかと藤丸は言うのだ。新しい酒を造りたい二人と、誰かの役に立ちたい、何かを果たしたいという藤丸とが一つの目標に向かって、新たな冒険を始めた瞬間である。

一方、冒険を終えようとしていた者もいた。波多野との共同研究で野宮(亀田佳明)が第一発見者となったイチョウの精虫は、野宮がもともと画工だったことから世界でも、日本の中ですらも認められず、波多野一人の発見にするように言われ、野宮が大学に辞表を出したのだ。大学教授になることが決まった波多野は、見捨てたのだと自分を責める。野宮の処遇に納得がいかない万太郎は、野宮を訪ねるが、野宮はスッキリした顔で言う。

田邊(要潤)に引き抜かれただけで、田邊が非職になった際、自分もやめるべきだったこと。しかし、生粋の語学の天才・若き学者(波多野)が声を掛けてくれたから、波多野が見たいと願うものを見て見たかった、それだけなのだと。「ここまで連れて来てくれてありがとう」と言い、波多野の言葉を遮って、目を休ませるよう労りの言葉をかける野宮。さらに野宮は、自分が奮起できたのは万太郎のおかげだとも言う。その世界でまだ何者でもなかった万太郎の頑張りは、本人も気づかぬうちに周りにエネルギーを与えていたのだった。

そして、野宮は東京を去る前に万太郎を訪ね、新しく生まれた千鶴も交えた家族の肖像画を描いてプレゼントする。野宮はそこで、西洋画仲間から聞いたとして、西洋では石版印刷でなく、板状のアルミニウムで大量印刷できる新しい技術があると話す。目を輝かせたのは、寿恵子だった。かつて石版印刷機を1000円で買うという冒険を成し遂げた寿恵子は、今度は新しい印刷機は5000円くらいするだろうかと言い、新しい商売を始めたいと語る。

しかしこれは、万太郎の植物図鑑の夢のためだけでなく、みえ(宮澤エマ)に自分の店を開かないかと勧められた寿恵子自身の自己実現のための冒険でもあった。夢を諦めていない綾と竹雄の姿も、寿恵子の刺激になっていたのだ。そして、寿恵子の「大きな夢を見る力」こそが万太郎の夢を現実につなげるエネルギーとなっている。

寿恵子はみえに勧められた渋谷で場所を探す。初めて訪れた渋谷は酷く汚い状態で、居酒屋店主(芹澤興人)にここはやめた方が良いと言われる。同じく「落ちてきた」人達の住む場所・十徳長屋では、どぶさらいもお掃除もみんなでやるのに......と思った寿恵子が、りん(安藤玉恵)に「助け合い」の方法を尋ねると、りんは「妄想を話し合う」ことを勧める。何があれば幸せになれるか考え、浮かんだのは、竹雄から万太郎の助手を引き継いだ横倉山での植物採集だった。そして、万太郎がしていたように、寿恵子は渋谷を自分の横倉山にするため、渋谷の町を自分で歩き、観察し、自分なりの地図を作っていく。握り飯、ボーロ、お茶など、数々の魅力に出会い、渋谷に惹かれて行く。そして、渋谷で人と人をつなぐ「待合茶屋」を開くことを決めるのだ。

そして、そこには万太郎のアイディアで、綾が土佐を離れるときに甘露煮にして持って来た、東京にはない、誰にでも愛される植物・ヤマモモが店の守り神として植えられる。

朝ドラは長尺ゆえに、終盤やることがなくなり、持て余す作品も正直多い。しかし、人、場所、時を丁寧に紡ぎ続けて来た本作では、終盤にきて、ますますここまでの積み重ねが生き、横軸と縦軸とが絡み合う濃厚な展開になって来た。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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