【どうする家康】孤独な王・信長(岡田准一)死す。「愛」を軸にした新たな「本能寺の変」の描き方

日本史上の人物の波乱万丈な生涯を描くNHK大河ドラマ。今年は、松本潤さんが戦国乱世に終止符を打った天下人・徳川家康を演じています。毎日が発見ネットでは、エンタメライター・太田サトルさんに毎月の放送を振り返っていただく連載をお届けしています。今月は「『本能寺の変』の描き方」についてお届けします。

※本記事にはネタバレが含まれています。

【前回】伏線が回収されてしまう...瀬名(有村架純)に近づく「命をかける」瞬間。彼女の運命は

【どうする家康】孤独な王・信長(岡田准一)死す。「愛」を軸にした新たな「本能寺の変」の描き方 morita_07@.jpg

イラスト/森田 伸

松本潤主演のNHK大河ドラマ「どうする家康」。本作は戦国の世を終わらせ江戸幕府を築いた徳川家康の生涯を、古沢良太が新たな視点で描く作品だ。本記事では7月放送分を振り返る。

「家康......家康......家康......!」
炎に包まれる本能寺で血まみれになりながら家康(松本潤)の名前を呼び続ける信長(岡田准一)。

大河ドラマにおける大きな見せ場となる「本能寺の変」は、毎作品どのように描かれるのか注目される。今回の「本能寺の変」は、孤独な強者・信長が求める「愛」や「友情」が強調された。

6月の放送で、家康に愛を与え続けてきた正室・瀬名(有村架純)が命を絶った。そしてその瞬間から、まるで別人のように家康の「フェーズチェンジ」がなされた。

突如として信長に従順となった家康の姿に、「ただのふ抜けになったように見える」「かしこくなられたんじゃ」と戸惑う家臣たち。信長をもてなすために、満面の笑顔で全力の「えびすくい」を披露する家康だったが、信長は「腹の中を見せなくなった。化けおったな...」とポツリ。ここまで一貫して"か弱き白兎"として描かれてきた家康は、多くの人がイメージする"狸"の要素を纏い始めたのだ。

「瀬名の死」という大きな出来事で、主人公のキャラクターを大きく変化させる描き方は鮮やか。信長の前でヘラヘラしていた家康が一転して冷徹な表情に切り替わり「信長を...殺す...」と告げた場面には多くの人が震えただろう。最大の愛を奪われた憎しみから自らの心を殺し、憎き相手・信長を殺す。視聴者としては「今回の『本能寺の変』、まさかの家康黒幕説をとるのか!?」とさえ思ったかもしれない。

しかしそんな予想を覆してくるのが本作の魅力。信長は、過去にも浅井長政をめぐる口論の末「お前も俺を信じぬのか!」と涙を浮かべ家康に絶叫した「孤独な王」である。多くの人を殺してきたことで、その報いを受ける、誰よりも無惨に殺されるであろうと自覚する信長。それを実行するのが家康かもしれないことも分かっている。

そして、二人が対峙し涙ながらに言い争う場面。信長に、自分の代わりがつとまるのかと問われた家康は「わしはわしのやり方で世を治める」「弱き兎が狼を喰らうんじゃ!」と言い放つ。そんな家康に「わずかな手勢で京へ向かう」とわざわざ手の内を明かした信長。

「やってみろ。待っててやるぞ」
信長の覚悟である。自分の息の根を止めるのは家康であってほしいという願い。アドリブも混ざったという、渾身の名場面だ。

しかしその後、信長の妹・お市(北川景子)が語った「あなた様(家康)は兄のたった一人の友」という言葉が彼の決意を揺るがせる。「兄はあなた様がうらやましいのでしょう。弱くて優しくて、皆から好かれて」。

結果的に決断できなかった家康。信長を誰が殺したか、それぞれの武将たちがどう動いたかという史実よりも、登場人物が何を考え、何を望んだかをつなぎ合わせることで描く壮大なヒューマンドラマがそこにはあった。

家康が断念したことで明智光秀が本能寺を襲い、信長は冒頭のとおり、そこに現れないただ一人の友の名を叫び続けながらその命を落とす。

序盤から大きな柱として描かれてきた信長との物語が終了し、8月からはいよいよ秀吉のターン。天下統一とその先がどのように描かれていくのか、おそらく丁寧な心理描写と「愛」をもって描かれることは間違いなさそうだ。

文/太田サトル
 

太田サトル
ライター。週刊誌やウェブサイトで、エンタメ関係のコラムやインタビューを中心に執筆。

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