ていねいに、ゆっくり生きる。 片付けとは「自分を知る」こと/フランス流片づけ

ていねいに、ゆっくり生きる。 片付けとは「自分を知る」こと/フランス流片づけ pixta_36578286_S.jpg部屋を整理整頓するために、ネットや雑誌で知った「収納用品」をたくさん買ってきて意気揚々!やる気に満ちて片付けをし始めたのに、終わってみたら結局レイアウトが変わっただけ、なんて経験ありませんか?

本書『モノを元に戻す技術』では、ベストセラーとなった『シンプルに生きる』の著者であるフランス人作家が、実際に日々行っている「片付け術」を惜しみなく紹介。「どうしたらスッキリ片付いた毎日を送れるのか?」迷える子羊を救う、片付け術の全てを伝授します!

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前の記事「片付けが嫌いな人は、やはり行動も散らかりやすい/フランス流片づけ(6)」はこちら。

 

歳をとることと、片づけ


私の祖母は数年程前から認知症になってしまいました。
元々片づけられない&捨てられない人でしたが、
この頃から物を溜め込むようになり、
たくさんの荷物に囲まれながら家に引きこもるようになってしまいました。

ゆるりまい『わたしのウチには、なんにもない。「物を捨てたい病」を発症し、今現在に至ります』


 

年をとるにつれて家がどんどん汚くなり、モノであふれていく人がいます。そのような家でモノを見つけようとしても、難しいことでしょう。徐々に彼らの記憶は衰えていきます。モノがあふれかえった家は、ある段階まで来ると、もはや片づけられなくなるのです。モノがあふれていることは、移動が困難な人にとっては障害になり、つまずいたり転んだり怪我をしたりする可能性もあります。歩行器や車椅子は通行することができず、そうした人たちは高齢者の施設に行くことを余儀なくされるのです。

世界でも有数の長寿国である日本。モノがどこにあるのかわからなくなるのが「認知症の始まり」と言う人もいます。一方で、自分の年齢にもっとも上手に順応できるのは心理的にもっとも柔軟な人だということもできます。

いつも私が通うカフェを経営している86歳の女性は、ご主人が8年前に亡くなったので、最近、モノを捨てるサービスを呼んだと語ってくれました。そのサービスでは運び去ったものすべてをなくすことを請け負ってくれるのですが、それを神道の典型的なしきたり、つまり火によって行うのです!

このご老人は、彼女の死後、自分の人生に寄り添い、満たしてきたこれらのものすべてをほかの人に「邪険に扱って」ほしくなかったのです。手で自分の周囲を掃くしぐさをしながら、すべてがきちんと完全に燃やされたと説明してくれたとき、彼女の瞳は満足気に輝いていました。彼女はその大きな家よりもずっと小さくて、より彼女の年齢に見合ったマンションに移り住んだのだそうです。

 

片づけとは、自分を知る術を学ぶこと


自分自身を知ることは、
自分の身体や精神、魂を知ることです。
B・K・S・アイアンガー(ヨーガの偉大な指導者)


 

片づけの第一ステップは、考えること。つまり分類し、選択をし、決着をつけることです。そうすることで心は明確に、思考は豊かになり、自分の習慣(いいものも悪いものも)や行為、ニーズや欲望を考え直さざるを得なくなります。すなわち、自分を受け入れ、ニーズと欲望を区別し、時には自分のなかにまだ埋もれている情熱を自覚することにもつながるのです。

もしずっと英国式にお茶を淹れること、つまり英国の昔の家族がそうしていたように、変わることのない作法に則って、同じ場所で同じ時間に同じ飲みものをいつも飲むことを夢見ていたのに、ほかの種類のお茶にも惹かれている自分に気づいたなら、片づけることは、あなたがただ儀式としてお茶を飲みたいのではなく、趣味としても楽しみたいのだということを自覚するきっかけとなります。こうして自覚することで、模様替えして家の一角をこの活動(道具、入れもの、お茶の種類ごとのティーポット、テーブルかトレイ、肘かけ椅子など)に捧げることになるかもしれません。

無意識に育んできた情熱が自分にあることがわかるかもしれないのは、片づけることによってなのです。すると、実際に具体化することができ、人生におけるおまけの小さな喜びを味わうことができます。この意味において、片づけは喜びの源泉となるでしょう。自分のものを整理し直し、集めることで、コレクター魂を発見するかもしれません。

友人の家で手帳について話していたとき、私は彼女が古いものも新しいものもすべて、ていねいにまとめて机の上の棚に保管していることを知りました。その古艶が出た革や金付けが施された縁、それぞれに異なったデザインは、みごとな作品を作りあげていました。つまり、ここで見てきたように、片づけることで情熱が呼び覚まされ、人生を新たな喜びで豊かにすることができるのです!

昔の暮らしは懐かしいかもしれませんが、必ずしも今よりよかったわけではありません。しかしながら、そのいい面を守ること、つまり多くの場合、昔の「良識」を忘れないように努めることは大切なことです。別の言い方をすれば、「いい加減に」生きることをしないで、反対に、私たちの先祖のように、ていねいにゆっくりと、仕事と余暇の時間、自分のための時間と他人(家族や友人)のための時間のバランスを保って、生きることが大切なのです。

 

次の記事「片付けをすれば感覚が洗練される。 心を汚染させないために/フランス流片づけ(9)」はこちら。

 

 

ドミニック・ローホー

著述家。フランスに生まれる。ソルボンヌ大学で修士号を取得し、イギリスのソールズベリーグラマースクール、アメリカのミズーリ州立大学、日本の仏教系大学で教鞭をとる。アメリカと日本でヨガを学び、禅の修行や墨絵の習得などをとおし、日本の精神文化への理解を深めてきた。フランスはもとより日本を含む全世界で著書がベストセラーになっている。『ゆたかな人生が始まる シンプルリスト』『マイバッグ』(以上、講談社)、『シンプルに暮らす』(KADOKAWA)ほか。


『モノを元に戻す技術』

ドミニック・ローホー/KADOKAWA)

ネットや雑誌、口コミまで様々な情報に振り回されて、整理整頓に労を費やす人が多い日本。本書にはベストセラーとなった『シンプルに生きる』の著者が実践している、フランス流片付けの極意が凝縮されています。今日からできる「豊かに生きるため」の片付け具体策が満載の、本当に使える「片付けノウハウ」本です。

この記事は書籍『モノを元に戻す技術』からの抜粋です
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