定期誌『毎日が発見』で好評連載中の、医師で作家の鎌田實さん「もっともっとおもしろく生きようよ」。今回のテーマは「ウォーキングは歩数よりも、歩き方!」です。
「イマイチ効果がない」理由
今年4月、日本医学会連合を中心とした80団体が「フレイル・ロコモ克服のための医学会宣言」を発表しました。
そのなかで、「80GO」(ハチマルゴー)を提唱し、80歳になっても歩いて外出することを目標に掲げています。
何歳になっても「歩ける体」を作ることが、健康にとって大切ということです。
ウォーキングはいつでも、だれでも取り組みやすい運動です。
長野県茅野市では40年近く前から「歩け歩け運動」を行いました。
各地域にも広がり、長野県が健康長寿県になったのも、ウォーキングが一役買っていると思います。
しかし、一方で「イマイチ効果を実感しにくい」という声も聞かれます。
そういう人にどんな歩き方をしているか聞いてみると、犬の散歩を兼ねていたり、街中を漫然と歩いているという話でした。
まったく歩かないよりもいいですが、これではあまり運動効果は期待できません。
反対に、歩数にこだわって一日1万歩以上歩いているという人もいました。
歩けば歩くほどいいと、がんばりすぎているのです。
ウォーキングの効果は、8000歩までは歩数に比例して高くなりますが、8000歩を超すとそれほど高まらないといわれています。
むしろ、がんばりすぎは三日坊主の原因になりますし、膝や腰などに問題が起こりやすくなるので注意が必要です。
歩き方のポイントは「速さ」と「歩幅」
では、どうしたら効果の高いウォーキングができるのでしょうか。
今、ウォーキングをしている人は、二つのポイントを意識して、少しだけ歩き方を変えてみましょう。
一つ目は歩く「速さ」です。
80歳で目標とする歩行スピードは10秒で11m。
この速さを下回る人は10年後に要介護になる可能性が高いとされています。
どの程度の速さがいいかは、年齢や体力などで異なりますが、だいたい「走り出す手前の、急ぎ足の速さ」がいい。
比較的きつい運動なので長時間は続けられません。
あとで述べる鎌田式速遅歩きの基本は、速歩きを3分したら、次の3分で遅歩きをして、弾んだ呼吸を整えるというのを繰り返します。
だから、続けやすいのです。
二つ目は「歩幅」。
歩幅を大きくして歩くと、下半身の筋肉がより刺激され、腕も大きく振るので、全身運動になります。
東京都健康長寿医療センターの研究では歩幅の広い人よりも、狭い人のほうが認知症の発症リスクが約3倍になったと報告しています。
女性の場合はさらに差が大きく、5.8倍になったそうです。
この「速さ」と「歩幅」を意識して歩くと、漫然とした散歩が、運動のためのウォーキングへと生まれ変わります。
生涯現役を目指す「鎌田式ウォーキング」
ぼくは「亡くなる直前まで、日帰り温泉やおいしいものを食べに行ける体を作ろう」と呼び掛けてきました。
そのための健康法として、ウォーキングは重要です。
前述した二つの歩き方のポイントをおさえ、「鎌田式ウォーキング」を考案しました。
そのなかの一つ「スタートアップ速遅歩き」を紹介しましょう。
あまり時間をかけずに歩けるので、忙しい人やせっかちな人にもおすすめです。
スタートアップ速遅歩き
(1)幅広歩行1分。歩幅を今より5~10cm大きくして歩きます。
(2)ピッチ歩行1分。ふつうの歩幅に戻し、競歩のように足の回転数を上げて歩きます。
(3)ゆっくり歩き1分。腹式呼吸をして呼吸を整えながら、ゆっくり歩きます。季節や風を感じながら歩きます。
(4)再び幅広歩行1分。
(5)ピッチ歩行1分。
合計5分間が1セットです。
通勤の駅までの時間や買い物に行くとき、いつものウォーキングの歩きはじめに、やってみてください。
慣れてきたら2~3セットやりましょう。
4セット20分ならさらに効果は大。
毎日続けると、血圧が下がり、メタボが少しずつ改善します。
ぼくは体重が8キロ落ち、上の血圧が140から120へと安定しました。
一時期飲んでいた不整脈の薬も要らなくなり、睡眠薬に頼らず眠れるようになりました。
こうしたウォーキングの方法を『奇跡の鎌田式ウォーキング』(家の光協会)にまとめました。
基本の歩き方や体質改善を目指した歩き方、動的ストレッチをしながらの回旋ウォークなど6種類を紹介しています。
高血圧や糖尿病、フレイル、認知症予防に
ウォーキングは、高血圧や糖尿病、脂質異常症など生活習慣病の予防効果が知られています。
もちろん、高齢になって要介護につながるフレイル(虚弱)になるのも防いでくれます。
認知機能の低下や認知症の予防にもウォーキングはおすすめです。
ウォーキングをすると脳由来神経栄養因子(BDNF)という物質が脳の中で盛んに分泌され、神経結合を増やし、思考や感情にかかわるドーパミンやセロトニン、ノルアドレナリンといった神経伝達物質の分泌を促し、認知能力を強化してくれるのです。
歩くことは、人間らしさにもかかわっています。
700万年前、ぼくたちの先祖は直立二足歩行になりました。
それにより、自由になった手を使うことができ、脳が大きく発達したのです。