定期誌『毎日が発見』で好評連載中の、医師で作家の鎌田實さん「もっともっとおもしろく生きようよ」。今回のテーマは「『腸がよろこぶ暮らし方のススメ』」です。
腸と脳はつながっている
「腹を決める」「腹を読む」そんな言葉からも、日本人は昔から、意思を決定するのは脳ではなく腹だという身体感覚をもってきたように思います。
現在の科学でも、脳と腸はお互いに影響し合っていることがわかってきました。
脳には150億個の神経細胞があるといわれていますが、腸にも1億個の神経細胞があります。
腸の神経細胞は独自のネットワークをつくっていて、自律神経を介して、脳に影響を与えているのです。
そのため、ストレスや不安、極度の緊張があると、おなかの調子が悪くなり、下痢や便秘になったりします。
反対に、お通じがよくなく、腸の調子が悪いと、何となく気分がうつうつとするということはありませんか。
この腸と脳のかかわりを「脳腸相関」といいます。
こうしたことから、「腸は第二の脳」といわれてきました。
しかし、最近は「脳は第二の腸」かもしれないという、新たな見解も登場しています。
生物の進化の過程を研究すると、はじめに栄養分を吸収するため、腸をもつ生き物が生まれ、その腸の神経細胞のネットワークが進化を遂げて脳になったと考えられています。
どちらが先であれ、腸と脳はとても近しい関係にあるということは間違いなさそうです。
健康を左右する腸内細菌
腸のはたらきは、栄養を消化し、吸収し、不要なものを排泄するだけではありません。
免疫機能の7割が集まっていて、体内に侵入してきた病原菌などから体を守るはたらきをしています。
また、幸せホルモンのセロトニンは、脳でもつくられますが、多くは腸でつくられます。
腸は幸せを感じさせてくれる臓器なのです。
こうした腸のはたらきを支えているのが、100兆個いるといわれる腸内細菌です。
腸内細菌の構成は一人ひとり千差万別、お花畑を意味する「腸内フローラ」といわれます。
腸内細菌の理想的な比率は、善玉菌が2、悪玉菌が1、日和見菌が7。
善玉菌は、免疫力を高め、発がん物質を分解し、体にいい物質をつくって代謝をよくします。
善玉菌が増えると、悪玉菌が増えるのを抑えるので、腸内環境がよくなります。
一方、悪玉菌は炎症を起こすなど腸内環境を悪くし、糖尿病や大腸がん、動脈硬化などの発症にもかかわっているといわれています。
日和見菌は、どちらか優勢のほうにつくので、善玉菌を増やすことが重要になります。
食物繊維や発酵食品を味方につけよう
腸内環境を整えるには、食物繊維を多く含む野菜や海藻、きのこなどをしっかりとることが大事です。
発酵食品も強い味方になります。
最近はビフィズス菌や乳酸菌の研究が進み、スーパーやコンビニにも、「記憶対策」や「花粉症対策」「睡眠の質の向上」「ストレスの緩和」などをうたったヨーグルトや乳酸菌飲料が並んでいます。
また、昔からなじみのある発酵食品にも、いいものがたくさんあります。
しょうゆ、みりん、納豆、漬物...。
なかでもみそは、スプーン1杯に1万から100万個近くの発酵菌が含まれます。
発酵のおかげで旨味や複雑味が増し、アミノ酸やビタミン類もとることができるのです。
長野県が長寿日本一になるのに貢献したのは、野菜をたっぷり入れた具だくさんみそ汁の普及でした。
みそと野菜の繊維が、腸内環境を整えるのに一役買っていたのです。
オックスフォード大学の論文では、多種多様、多産地の発酵食品をとると、善玉菌が競い合い、腸内環境をよくすると発表されています。
新しいものも、古くからあるものも、いろいろな種類の発酵食品をとるとよいでしょう。
ぼくはこれらの発酵食品や食物繊維に加え、腸内環境を整える乳酸菌のサプリメントを飲んでいます。
鎌田式の具だくさんみそ汁。上は「いろいろ野菜のみそ汁」、下は「わかめと焼き油あげとえのきのみそ汁」です。いつものみそ汁に、野菜を一つ、二つとプラスするのがコツ。具が増えるので全体の水分量は減り、同じ濃度でも摂取する塩分量は少なくなるのです。食物繊維が増えて塩分が減少する、一石二鳥の方法です。
鎌田式「腸」健康法
腸を元気にするために、食事以外にもコツがあります。
次の3つを実践してみましょう。
(1)朝日を浴び、朝食をとる
朝起きて太陽に当たり、朝食をとると、体内時計がリセットされ、サーカディアンリズム※(概日リズム)が整います。リズムが整うことで、睡眠のリズムも整い、免疫力も高まります。
(2)冷えを解消する
おなかを冷やすと腸内環境が悪化しやすくなります。冷房や冷たいものの飲みすぎで、夏でも体が冷えています。冷房をつけて寝るときなどは腹巻をするのをおすすめします。
(3)自律神経を整える
コロナ以降、精神的なストレスが高まり、イライラが蔓延しているように思います。
また、家から出ない生活でメリハリがなくなり、やる気が出ないという人も目立ちます。
そんなときはリラックスする副交感神経と、やる気がみなぎる交感神経が、一日のうちにバランスよく整うことが大事です。
ストレッチや筋トレで体を動かしたり、ゆったりした音楽を聴いたり、笑いの多い生活をこころがけましょう。
腸内環境をよくすることは、体と心の健康につながります。
厳しい夏を乗り越えて、秋が来ても万全の体調管理ができるように、腸がよろこぶ暮らし方を意識してほしいものです。
※一般的に「体内時計」といわれる、24時間周期の体のリズムのこと。
【カマタのこのごろ】
スクワットや筋トレ、ストレッチを紹介した本を、たくさんの方に読んでいただいています。多くの本屋さんで、鎌田の健康本コーナーがつくられて紹介されています。(写真)
執筆依頼があふれ、出版予定が来年秋まで決まりました。毎日、筋トレやストレッチをしながら、原稿書きに勤しんでいます。