「緑茶は健康に良い」とは、昔から言われ続けていることです。古くは鎌倉時代の歴史書「吾妻鏡」に、臨済宗の開祖・栄西が時の将軍・源実朝に、二日酔いの良薬としてお茶をすすめたと記されています。日本に暮らす人にとって、緑茶はとても身近な飲み物です。もし多くの健康効果が期待できるとしたらうれしいですよね。
現代では日本のみならず、世界各国の研究機関で緑茶の健康効果についての調査・研究が行われています。そこで今回は、これまでに発表されている研究結果をもとに、緑茶を飲むことで期待できる効果・効能をいくつかご紹介します。
緑茶にはどんな効果・効能があるの?
緑茶の効果・効能は、茶葉に含まれるポリフェノール「カテキン」の働きによるものと考えられています。
そもそもポリフェノールには高い抗酸化作用があることがわかっていますが、それに加えて消臭や抗菌、抗ウイルスなどさまざまな作用があるとして注目を集めています。
特に効果が期待されているのが、緑茶に含まれるカテキンの約6割を占める「エピガロカテキンガレート(EGCG)」です。
ちなみに、紅茶やウーロン茶も原料は緑茶と同じ「ツバキ科ツバキ属チャノキ」ですが、加工の途中でカテキンの種類が変化するため、緑茶ほどのエピガロカテキンガレートは抽出されません。
では、緑茶を飲むことで期待できる効果・効能を具体的に見ていきましょう。
■血中コレステロールが低下し動脈硬化の予防につながる
コレステロールは健康を維持するために欠かせない物質ですが、多過ぎるのも少な過ぎるのも問題です。
血液中のLDL(悪玉)コレステロールが多過ぎると動脈硬化の原因になり、心筋梗塞や脳梗塞などのリスクが高まります。
一方で、HDL(善玉)コレステロールが少な過ぎると、がんや肺炎、脳卒中になる要因とされています。
コレステロール値が上昇する主な要因は、運動不足や偏った食事などの生活習慣。
もっとも大切なのは生活習慣の改善を心掛けることですが、積極的に緑茶を飲むことでコレステロール値を正常値に戻す効果が期待できます。
緑茶に含まれるエピガロカテキンガレートに、コレステロールの吸収を抑制、さらに排出を促す働きが認められているためです。
なおエピガロカテキンガレートは、悪玉コレステロールにのみ働きかけ、善玉コレステロールを減少させることはありません。
血流改善やストレス緩和など! 毎日飲めば健康増進効果が得られる「緑茶の効能」を解説!
■体脂肪が低下しダイエット効果も
食事中に緑茶を飲むと中性脂肪の吸収が穏やかになり、肥満予防効果が期待できます。
中性脂肪とは、食事中に腸から吸収されて血液に取り入れられる脂肪のこと。
エネルギーとして使われる大切なものですが、使われなかった分は体脂肪(内臓脂肪、皮下脂肪)へと変化し、肥満につながるというわけです。
緑茶に含まれるカテキンには、肝臓での脂肪酸の燃焼を促進する効果や、腸からの中性脂肪の吸収を抑える効果があることが確認されています。
摂取し続けることによって肝臓の脂質代謝がより高まり、エネルギー消費が増加するため、ダイエットにおすすめの飲み物といえるでしょう。
ところで、ダイエット効果と聞くと「ウーロン茶」を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
無発酵で作られる緑茶は脂肪酸の燃焼効果、半発酵で作られるウーロン茶は中性脂肪の吸収を妨げる効果が高いとされています。
普段の食事は緑茶、特に脂っこいメニューのときはウーロン茶といったように、食事内容で飲み分けるのも良いかもしれませんね。
■健康維持に欠かせない、抗酸化作用を含む成分が豊富
緑茶には、体内で発生した活性酸素を除去する効果があるともいわれています。
活性酸素とは、呼吸で体内に取り込まれた酸素の一部が活性化したもので、通常は細胞伝達物質や免疫機能として働きます。
ただし増え過ぎると正常な細胞を攻撃し、がん細胞へと変化させてしまうという厄介な物質です。
緑茶に含まれるエピガロカテキンガレートには、活性酸素からDNAを守る作用があるという研究結果が発表されています。
国立がん研究センターの研究では、1日5杯以上の緑茶を飲む男性は進行性の前立腺がんのリスクが、女性は胃がんのリスクが低下することがわかりました。
活性酸素は強いストレスや脂質の多い食事などが要因で増加するとされていますが、そもそも呼吸をするだけで作られるので避けようがありません。
健康を維持するために、毎日緑茶を飲む習慣をつけてみてはいかがでしょうか。
■抗菌・抗ウイルス作用があり、インフルエンザ等の予防にも
エピガロカテキンガレートには抗ウイルス作用があり、インフルエンザや風邪などの感染を抑制する効果が確認されています。
喉の粘膜に付着したウイルスを洗い流す「緑茶うがい」は、広く知られている風邪対策です。
緑茶にはビタミンCも豊富に含まれているため、身体の免疫力を高めるのに役立ちます。
また抗菌作用もあり、食中毒の原因となる腸管出血性大腸菌(O-157)や、胃潰瘍・胃がんの原因となるピロリ菌の増殖を防ぐといわれています。
研究段階ではありますが、緑茶が新型コロナウイルスを不活化するという報告も寄せられているようです。
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■認知機能の低下予防が期待できる
緑茶の旨味成分となるアミノ酸の一種「テアニン」には、神経細胞保護作用があるといわれています。
そのため、緑茶を摂取することでリラックス効果やストレス軽減効果、認知機能の低下予防の効果が期待できます。
国立長寿医療研究センターが行った調査では、緑茶の摂取が1日1杯未満の人に比べ、1日に2杯以上の人は認知機能の低下リスクが約30%低下することがわかりました。
動物実験では、アルツハイマー型認知症の発症に関連する脳内たんぱく質「アミロイドβ」の蓄積を抑える作用も報告されています。
■覚醒作用で頭がスッキリする
緑茶にはカフェインが含まれており、覚醒作用で頭がスッキリします。
そこで気になるのが「不眠」です。
夕食時に緑茶を飲むと眠れなくなるのでは...と心配になる人もいるでしょう。
緑茶の旨味成分テアニンには、カフェインの中枢神経興奮作用を抑制する効果があります。
そのため、緑茶で不眠になる心配は少ないと考えられます。
気になる場合は、後述する緑茶の種類や飲み方に注意してみてください。
どの緑茶がいいの? 種類も覚えておこう
緑茶といっても種類があり、それぞれに風味や含まれる成分が異なります。
目的に合った緑茶選びができるように、種類や特徴を押さえておきましょう。
■玉露
玉露は緑茶の中でも最高級品として知られ、「お茶の王様」とも呼ばれています。
新芽に覆いをかけて直射日光を遮って育てるため、光合成によって生成されるカテキンの量は多くありません。
反対にテアニンの含有量が増え、まろやかで濃厚な甘みを味わえます。
リラックス効果、睡眠の質の改善、認知機能の低下予防におすすめです。
■煎茶
日本の流通量の80%以上を占める煎茶は、もっともポピュラーな緑茶といえるでしょう。
程良い渋みと爽やかな香り、すっきりとした飲み口が特徴です。
摘み取るまで一度も日光を遮らずに育てるため、カテキンやビタミンCがたっぷり含まれています。
抗菌作用や抗ウイルス作用、抗酸化作用などが期待できます。
■番茶
6月中旬に摘む二番茶以降の茶葉で作られるのが番茶です。
名前の由来は「番外茶」で、主にペットボトルのお茶用に使われます。
カフェインがあまり含まれていないので、子どもや妊婦にも安心です。
特に水出しはカフェインが抽出されにくいので、眠れなくなることが心配な場合は夜のお茶を水出し番茶にすると良いでしょう。
■抹茶
茶道に欠かせない抹茶は、茶葉を揉まずに乾燥させ、茶臼や微粉砕機で挽いて微粉状にしたものです。
茶葉の栄養を余すことなく摂取でき、肥満防止やアンチエイジング効果が期待できます。
特にテアニンの含有量が多いので、リラックス効果や認知機能の低下予防の効果を期待する人におすすめです。
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緑茶の飲み過ぎに注意! 1日の摂取目安量はどのくらい?
いくら緑茶が健康に良いといっても、飲み過ぎは逆効果です。
カフェインの過剰摂取により、不眠やめまいなどの健康被害が出ることがあるためです。
カフェインの感受性には個人差があるため、健康に悪影響が生じないと推定される1日当たりの摂取許容量は設定されていません。
なおカナダ保健省(HC)では、健康な成人でカフェイン摂取量は最大400mg/日、コーヒーならマグカップ(237ml入り)約3杯までと注意喚起を行っています。
では、緑茶の場合はどのくらいの量になるでしょうか?
緑茶のカフェイン量がもっとも多いのは玉露です。
湯呑1杯分100mlに対し、カフェイン160mgの計算になります。
煎茶は100mlあたり20mgほどです。
もし1日にお茶だけを飲むのなら、玉露は湯呑2杯まで、煎茶は湯呑20杯まで飲んでも問題ありません。
ただし、タンニンは鉄の吸収を妨げるため、貧血気味の人は摂り過ぎに注意してください。
また緑茶には、尿路結石の原因となるシュウ酸カルシウムが含まれています。
カルシウム制限が必要な人は、主治医の指示を仰ぐことをおすすめします。
身近な飲み物・緑茶で健康習慣を手に入れよう!
毎日の緑茶習慣には、肥満や生活習慣病などを防ぐ効果が期待できます。
抗菌・抗ウイルス作用にも一定の効果を示しているため、何かと感染症対策が気になる昨今、心強い存在といえるのではないでしょうか。
健康を維持するためにも、身近な飲み物「緑茶」を生活に取り入れてみてはいかがでしょう。