【舞いあがれ!】かっこよく、美しい...!吉谷彩子さん演じるヒロインの先輩"由良"の存在感

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「ヒロインの"メンター"由良先輩」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【前回】朝ドラとしては珍しい...? 「涙腺ポイント」は「コツコツと頑張る」ヒロインたちの姿

【舞いあがれ!】かっこよく、美しい...!吉谷彩子さん演じるヒロインの先輩"由良"の存在感 pixta_22156104_S.jpg

福原遥がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の第5週が放送された。

本作は、ヒロイン岩倉舞(福原)がものづくりの町・東大阪と自然豊かな五島列島で様々な人との絆を育みながら、空を飛ぶ夢に向かっていく挫折と再生のストーリー。

今週ラストでは、とうとう舞(福原遥)がテストフライトで飛んだ。

「スワン号」がふわりと浮かんだ瞬間、思わず涙が出てしまった視聴者は多いだろう。

ただ飛んだだけなのに、なぜこうも泣けるのか。

テストフライトで失敗し、怪我をしてしまった由良冬子(吉谷彩子)に代わり、パイロットになることを決めた舞。

しかし、失敗の責任を感じ、なにわバードマンを去った設計担当の刈谷博文(高杉真宙)が「由良でさえ難しかったっちゃけん、お前にやれるわけなか」と舞に言ったように、たった2カ月で、もともと野球で鍛えた強い身体を持ち、ストイックなトレーニングをしてきた由良の代わりが務まるとしたら、それは努力に対する冒涜になりかねない。

視聴者の多くも、正直、「さすがに無理だろ」と思ったはずだ。

しかし、舞の日々の過酷なトレーニングと5キロの減量の傍らで、断られても断られても刈谷を口説き、なにわバードマンに巻き込んだ代表・鶴田葵(足立英)の情熱や、刈谷が急にいなくなっても人力飛行機を飛ばす覚悟で、1回生のときからひそかに設計を勉強していた玉本淳(細川岳)の思いが描かれ、みんなの思いを受けて刈谷がなにわバードマンに戻って来る。

舞の説得によって戻ったわけじゃないところが美しい。

しかし、ダイエットが進むと、体重が減らなくなるうえ、筋肉がついたことで逆に増えてしまう事態に。

しかし、課題はむしろ「体力」の方だったが、そこで刈谷はこれまでの目標値「190W50分」漕げることから「180W60分」に修正。

しかし、これは諦めではなく、舞の実力に合わせて設定の負荷を落とし、飛行機の設計を変えるという、あくまで「記録」を目指すための前向きな変更だった。

しかし、舞のスランプは続き、そこに現れたのが、松葉杖姿の由良だ。

「よっ!」の優しい声に、一瞬で相好を崩す舞。

舞が思うように行かないと言うと、由良は記録飛行の舞台でもある琵琶湖へ行くことを提案。

鶴田の運転で、由良が声をかけつつ、先行する車を追って走る舞。

琵琶湖に到着するが、自分が目標に届かないせいでみんなの作業を増やしてしまう、みんなの努力を台無しにしてしまうのではないかと不安を漏らす舞に、由良が言う。

「しんどいのは当たり前や。自分、空飛ぶんやろ。飛行機は向かい風を受けて、たかーく飛ぶんや」

舞にとって由良はメンターであり、と同時に、同じ目標を抱く親友になりつつある。

朝ドラには、進む道を示すメンター的存在が多く登場するが、学生時代の同性の先輩がそうしたメンターになるケースは珍しい。

そして、そんな舞の帰りを温かく迎えてくれる仲間たち。

翌日から由良との二人三脚のトレーニングが始まる。

「体力ついたなぁ」の一言が、どれだけ嬉しいことか。

そんな中、1回生・日下部祐樹(森田大鼓)が、舞がもう少し涼しく楽に飛べるよう、フェアリングの空気の流れを変えたほうが良いと提案。

仲間を飛ばしたい一心で、新たなアイディアが生まれ、才能が覚醒する。

自分のためでなく、仲間のため、同じ目標に向かって努力する中で新たな何かが生まれてくるのもまた、美しい。

そして、いよいよテストフライト。

今週冒頭では「そんなに簡単じゃないだろ」と思った多くの視聴者も、気づいたらみんなが心を一つにして「飛べ飛べ!」と願ったはずだ。

そして舞いあがった瞬間の嬉しさ、高揚感。

「記録を狙える人にスワン号を飛ばして欲しいです」と言う由良に、鶴田が自転車部から人材を探す案を出したときの由良の返しが思い出されて、また泣ける。

「記録を狙えるとしたら、それは岩倉です。スワン号を作った仲間の思いを知らん人には記録は出されへん思います」

飛ぶ瞬間の高揚感には、想定外のトラブルや次々に巻き起こる悲劇なんて必要ない。

ただひたむきに一つの目標に向けて頑張る仲間たちと「応援したくなるヒロイン」がいれば十分なのだ。

そして、それがいかに難しく尊いことかは、長年の朝ドラ視聴者は皆、知っている。

だからこそ『舞いあがれ!』は非常に難度の高いことに成功している秀作なのだ。

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文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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