電子体温計は10分後の体温を予測している!/身のまわりのモノの技術(11)【連載】

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最近はあまり見かけなくなったが、昔ながらの体温計といえば水銀体温計である。水銀の熱膨張を利用して、体温を測定する温度計だ。しかし、どうして水銀なのだろう。それは、表面張力が強いからである。水銀槽(水銀溜だまり)と毛細管は非常に細い管でつながっている。これを留点というが、この点を通って毛細管に出た水銀は、強い表面張力のために元の水銀槽に戻れなくなる。これがポイントである。測定後でも表示している体温が変わらないからだ。ちなみに、温度表示を戻すには「振る」「回す」などして、強引に力を加えなければならない。

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水銀体温計の欠点は有害な水銀を使用していること、割れやすいこと、そして測定時間が10分と長いことだ。小さな子どもや病人に10分もじっとしてもらうのはたいへんである。

そこで登場したのが、電子体温計だ。電子体温計は、温度によって電気抵抗が大きく変化するサーミスタを温度センサーとして利用する。抵抗を測れば温度がわかるのである。サーミスタは、万一壊れても有害ではない。

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多くの電子体温計には予測機能が備わっている。1分程度測定すれば、その温度上昇カーブから実際の体温をマイコンが予測する機能である。おかげで、水銀体温計のように長時間じっとしている必要はなくなった。

最近は耳式体温計も人気だ。これも電子体温計の一種で、鼓膜とその周辺から出ている赤外線を測定する。数秒で検温ができるのが売りで、温度センサーには、接触しなくても瞬時に測定できるサーモパイルを利用している。

耳式体温計は、本体プローブを耳の穴に挿入して利用する。鼓膜の近くは、外気等の影響を受けにくく、体内の安定した温度を示すという。しかし、耳に挿入する向き・深さなどの条件により、測定値にばらつきが生じやすい。測定する際は、センサーが鼓膜からの赤外線をまっすぐキャッチできるように耳を引っ張り、外耳道を一直線にすることが重要だ。

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涌井 良幸(わくい よしゆき)
1950年、東京都生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)数学科を卒業後、千葉県立高等学校の教職に就く。現在は高校の数学教諭を務める傍ら、コンピュータを活用した教育法や統計学の研究を行なっている。
涌井 貞美(わくい さだみ)

1952年、東京都生まれ。東京大学理学系研究科修士課程を修了後、 富士通に就職。その後、神奈川県立高等学校の教員を経て、サイエンスライターとして独立。現在は書籍や雑誌の執筆を中心に活動している。

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「雑学科学読本 身のまわりのモノの技術」
(涌井良幸 涌井貞美/KADOKAWA)
家電からハイテク機器、乗り物、さらには家庭用品まで、私たちが日頃よく使っているモノの技術に関する素朴な疑問を、図解とともにわかりやすく解説している「雑学科学読本」です。

 
この記事は書籍「雑学科学読本 身のまわりのモノの技術」(KADOKAWA)からの抜粋です。

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