昔からよく言われてきた「料理のさしすせそ」は、調味料の頭文字を取っており、料理の味付けをする順番を簡単に覚えるためのゴロ合わせです。とはいえ、なぜ砂糖が1番目で塩は2番目なのか? 「さしすせそ」という順番に入れなければならないか? などの理由まで知っている方は少ないのではないでしょうか。そこで、味付けの基本ともいえる「料理のさしすせそ」を解説します。調味料を入れる基本の順番と理由を知れば、きっと料理上手に一歩近づけるはずです。
まずはおさらい! 「さしすせそ」って何の調味料?
「さしすせそ」とは、煮物などの和食に使う5種類の基本的な調味料のことです。
「さ」は砂糖、「し」は塩、「す」は酢、「せ」はしょうゆ、「そ」はみそのことを指しています。
「し」はしょうゆと間違えられがちですが、正しくは「し=塩」です。
「せ」がしょうゆの理由は、しょうゆはかつて「せいゆ」と書かれていたからです。
時短が優先される近年は調味料を同時に入れるレシピが多い傾向にありますが、本来は味が染み込みにくい調味料から入れるために「さしすせそ」という順番が付けられました。
ジャガイモなどの芯まで味が染み込みにくい具材を調理する際は、「さしすせそ」の順番で入れたほうがおいしく仕上がります。
各調味料の特徴や役割も知っておこう!
普段何気なく使用している調味料の役割は、料理や食品に味や香りを付けるだけではありません。
調味料は料理や食品に弾力や粘り、艶を出したり、保存性を高めたり料理全体のおいしさを左右する重要な存在です。
「○○を使うと食材が柔らかくなる」「△△を入れると変色防止になる」など、調味料を加えるとおいしさがアップする話を聞いたこともあるのではないでしょうか。
ここからは、各調味料の特徴や役割について解説します。
■「さ」=砂糖
砂糖は甘みのある調味料の一つです。
甘みを加える以外にも、水に溶けやすく水分を抱え込んで離さない性質があるため、食材の食感を良くします。
例えば、砂糖をあらかじめ肉に揉み込んでおくと、肉の組織に入り込んで水分を引きつけ、柔らかくジューシーな仕上がりになります。
また、砂糖は温度によって状態や色が変化するのも特徴です。
料理やお菓子の材料に砂糖を加えて加熱すると、きれいなきつね色になったり艶のある仕上がりになったりします。
焼き菓子やパンがこんがりきつね色に仕上がるのは、砂糖が含まれているからです。
他にも酸味や苦みを和らげる、油脂の酸化を防止する、魚の臭みを抑えるなど、砂糖にはいろいろな効果が期待できます。
■「し」=塩
塩は料理に塩味を加えるだけでなく、料理の味を引き締める調味料です。
味に関する効果以外にも、素材の水分を引き出す脱水作用や、タンパク質の保水力をアップしてしっとり仕上げる作用もあります。
脱水作用を利用して、魚の切り身に直接塩を振りかける「振り塩」をすると、余分な水分が抜けて魚特有の臭みが軽減されるとともに、加熱すると身がふっくらします。
ちなみにタンパク質の保水力が高まる作用を利用して、肉に塩を振りしばらく置いてから加熱するとジューシーに仕上げることが可能です。
さらに、酢の物などの酸っぱい料理の酸味を抑制させたい、食材や料理の甘みを引き立てたいなどの場合も、塩を加えるとバランスの良い味に仕上がります。
■「す」=酢
酢は料理に酸味や風味を加えたり、塩味を和らげたりする調味料です。
酢には米や麦などを原材料とした穀物酢と、リンゴやブドウなどの果実を原材料とした果実酢があります。
どちらも原材料をアルコール発酵して酢酸発酵し、その後熟成という工程で作られています。
酢はタンパク質の凝固作用を持っていることが特徴です。
ゆで卵を作る時に酢を入れるのはタンパク質の凝固作用で殻が割れても白身はしっかり固まる上に、殻が剝きやすくなるからです。
また、魚の煮崩れも防ぎます。
タンパク質を柔らかくする効果もあり、肉料理に加えると肉が柔らかく、魚料理に使うと魚の小骨を柔らかくします。
酸化酵素の働きを弱める作用もあるので、あくが強く酸化の影響で変色しやすい根菜類の変色防止にも効果的です。
にんじんやみょうがなど赤みのある野菜の色を鮮やかにする作用もあります。
■「せ」=しょうゆ
しょうゆは日本料理の味付けに欠かせない調味料で、原材料は大豆、小麦、塩などです。
原材料や塩分によって、白しょうゆや淡口しょうゆ、濃口しょうゆなど数種類に分けられています。
しょうゆは醸造される過程で、麹菌の酵素により大豆と小麦のタンパク質が約20種類ものアミノ酸に変化してうま味が生まれます。
しょうゆのうま味の中心となるのがグルタミン酸です。
グルタミン酸は、だしなどに使われるかつお節に含まれるイノシン酸と一緒に味わうと、さらに深いうま味が生まれます。
また、しょうゆを使ってしょうゆ漬けにしたり、佃煮にしたりすると常備菜の日持ちが良くなります。
これは、しょうゆに含まれる塩分と有機酸の静菌(殺菌)効果によるものです。
他にも、肉や魚の臭み消しや甘みを引き立てる効果が期待できます。
■「そ」=みそ
みそは、原材料に塩と麹を加えて発酵させた発酵食品で、甘みや苦み、うま味、塩味、渋味などが複雑に絡み合った味わいです。
大きく分けると米を原材料とした米みそ、麦を使った麦みそ、大豆を使った豆みその3種類に分けられます。
微生物の働きで発酵熟成するため、気候風土や環境、水質などにより発酵熟成が異なり、みそを作った蔵によっても違った味わいになるのが特徴です。
そのため古くから、日本各地でその土地ならではのみそが作られてきました。
辛さ加減は、食塩の量や「麴歩合」という大豆に対する麹の比率で決まり、麴歩合が高いみそほど甘みが強く、熟成が進むほどうま味は強くなります。
色は淡色、赤、白の3色に分類され、発酵熟成が進んでいるみそほど濃い色に仕上がります。
どうして調味料は「さしすせそ」の順番で入れるの?
各調味料には使用するのに適したタイミングがあり、昔から「さしすせそ」の順番通りに入れると料理がおいしく作れると言われてきました。
なぜ、「さしすせそ」の順番が適しているのか、その理由を調味料ごとに解説します。
まず、1番目に入れるのは砂糖です。
砂糖には食材を柔らかくする性質があるとともに、5種類の調味料の中では分子量が大きく、食材に染み込むまで時間がかります。
そして、2番目に入れるのは塩です。
塩は砂糖よりも分子量が小さく、砂糖よりも早く食材に染み込む上に食材を引き締める作用のある調味料です。
そのため砂糖、塩の順番で入れることで、食材のうま味が引き出されるとともに程良い柔らかさに仕上がります。
ちなみに砂糖と塩を同時に加えると、塩の方が先に食材に染み込み、塩気が強くなるため注意が必要です。
3番目は酢、4番目がしょうゆ、5番目はみその順番になります。
この3種類は、全て麹菌を使い発酵させた発酵調味料です。
発酵調味料を加熱すると、大豆や麦で作る調味料ならではの豊かな風味が失われてしまうため、後から加えます。
「酒」と「みりん」はいつ入れるの?
和食には基本的な調味料以外にも、「酒」や「みりん」を使います。
では、「さしすせそ」には含まれていない酒とみりんは、どのタイミングで入れるのが良いのでしょうか。
「本みりん」や「料理酒」はアルコールを含んでおり、加熱が必要です。
そのため、砂糖の前に入れましょう。
本みりんにはうま味やコクを付ける、食材に味が染み込みやすくなる、煮崩れを防ぐなどの作用があります。
料理酒には、本みりんの作用に加えて、肉や魚の臭みを消したり、食材を柔らかくしたりする作用も期待できるため、本みりんや料理酒を早めに入れると料理の風味がアップします。
ただし、料理に甘みや照りを付けられる「みりん風調味料」はほとんどアルコールを含んでいないので、「さしすせそ」のいちばん最後に入れるのが最適です。
「さしすせそ」には理由あり! 順番をしっかり守って料理上手になろう
昔から言われてきた「さしすせそ」の順番には、しっかりとした理由があります。
分量通り使えば味は変わらないイメージがあるかもしれませんが、「さしすせそ」は調味料それぞれの特徴や効果を活かせる順番です。
この順番を守ることで料理の失敗が少なくなり、いつもの料理もワンランク上の仕上がりになります。
「さしすせそ」を守って、料理上手になりましょう。