毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「ひなたの道」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
【前回】るいが語った「みんな間違う」。ラストへ続く"自分と向き合う"ことの意義
やってくれるだろうとは思っていた。しかし、まさかここまでとは......。
最終週まで謎だらけのNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の第23週。
冒頭では「おいしゅうなれ」と言いながらコーヒーを入れるるい(深津絵里)と、傍らでピアノを弾く錠一郎(オダギリジョー)の姿が。
そこに海外から帰国したキャリアウーマン風のひなた(川栄李奈)から電話が来る。
どういう状況?
そうした現在と、積み残した数々の謎が並行して描かれ、結びついていく。
るいの母・安子と、ハリウッド映画のキャスティングディレクター、アニー・ヒラカワは同一人物なのか。
その謎は、岡山の偕行社で行われるクリスマス・ジャズ・フェスティバルのチケットをひなた(川栄李奈)がジョージ(ハリー杉山)に渡したことから、明らかになっていく。
母への思いを込めてステージで「On the Sunny Side of the Street」を歌うことになったるい(深津絵里)が緊張で固まる中、やって来たのは「大阪のお母さん」竹村クリーニング店の竹村和子(濱田マリ)だ。
錠一郎が招待し、新幹線の切符の手配などしてくれていたのだ。
夫・平助(村田雄浩)は体を悪くして遠出は無理だというが、夫婦が健在であることにホッとした視聴者は多かったろう。
錠一郎のもとにも、かつて世話になったジャズ喫茶のマスター・小暮(近藤芳正)という嬉しい客が。
そして、フェスティバルの準備が進められる中、ひなたや桃太郎(青木柚)が控室でアニー・ヒラカワが出演するラジオを聴いていると、アニーが突然日本語で話し始める。
やはり同一人物だった。
そこで語られたのは、和菓子屋で生まれたこと、るいへの思いや謝罪だった。
おそらく一方的に懺悔し、アニー(安子)は再び全てを捨て、姿を消すつもりだったのだろう。
そこを引き止め、つなぎ止めたのが孫であるひなただ。
会場前でアニーの姿を見つけたひなたが声をかけると、アニーは猛ダッシュで逃げる。
すぐ逃げる兄・算太と重なる血の濃さに加え、かつて夫・稔を戦争で失い、神社を走り、転んだ絶望の姿も重なるが、こんな大事な場面で悲喜劇を同時に見せる脚本・演出は若干の狂気に満ちていて素敵だ。
そんな祖母・安子を背負い、ひなたは「ひなたの道」を歩いてほしいと伝える。
そして、るいが歌う中、やって来た安子。
るいはステージを降り、安子を抱きしめ、涙を流しながら言う。
「I love you」
かつて若く未熟ながらも必死に生きていた安子を絶望のどん底に突き落とした、最愛の娘の誤解から生まれた言葉「I hate you」。
しかし、この言葉に最も苦しみ、傷ついていたのは、言葉をぶつけられた安子よりも、ぶつけた側――自身の記憶を封印してきたるい自身だったのではないか。
伯父・算太と再会したことで記憶の扉を開けたるいが、長い時を経て岡山で雉真家の勇(目黒祐樹)や雪衣(多岐川裕美)などから話を聞くうち、自身の母への誤解が見えてきたためだ。
るいの赦しは、安子だけでなく、るい自身を辛い過去から解き放つものだったろう。
さらに、ひなたにラジオ英語講座の講師の話が舞い込む。
声をかけてくれたNHKの小川という女性は、かつて軒先でラジオ英語講座を聞いていた安子に家の中で一緒に聴くよう誘ってくれた女性の孫(紺野まひるの二役)だった。
また、るいと錠一郎が岡山のDipper mouth bluesを訪れた際にチラリとうつっていた「たちばな」の包み紙は、安子の父・金太(甲本雅裕)が助けた戦災孤児の少年の店のものだった。
商売の面白さを教わったことから、「たちばな」の暖簾の文字を覚えていて、その名で和菓子屋を全国展開するまでになっていたのだ。
安子は数十年ぶりに吉右衛門(堀部圭亮)に再会。
安子の親友・きぬも、本人ではなく、孫・花菜(小野花梨の二役)が登場。
病気のきぬは、安子が出演したラジオを聴き目を輝かしたと言い、きぬとの再会を安子が約束する。
そんな花菜に一目惚れした桃太郎が、即座に交際を申し込み、後に結婚。
回転焼き屋を営みつつ、母校の野球部の監督になり、コーチになったジョージ、息子・剣を、雉真繊維のユニフォームを着て甲子園に連れて行く。
「甲子園に出られたら告白」という気の長い願掛けで失敗してきた大叔父・勇の恋のリベンジを果たし、悲願の甲子園出場も果たした。
岡山の桃太郎がジョージ(おさるの)、雉(雉真)、剣(犬)を連れて鬼退治に向かう図が、こうして完成。
かつてきぬの豆腐屋で祖母・安子がおはぎを売らせてもらっていた縁を、孫たちの代で夫婦として共に回転焼き屋をやるかたちで継ぐとは。
さらに、祖父のDipper mouth bluesのマスター・定一のひ孫・慎一(共に前野朋哉)がトミー北沢(早乙女太一)の付き人になり、その店をるいと錠一郎が引き継ぐことに。
さらにさらに、仕事を引退し、再び青春を謳歌する一子
(市川実日子)の夫はコワモテの田中(徳井優)似ということが発覚。
そしてモモケン(尾上菊之助)とすみれ(安達祐実)は40年ごしのゴールインを果たした。
また、本編でずっとナレーションだと思っていたのは、実はひなたのラジオ英語講座だったこともわかる。
そんなひなたのラジオ英語講座のパートナー・ローレンス(城田優)は、実は初恋のビリーだった。
そこで、ひなたは、幼い頃の自分が言えなかった英語の言葉、「家に来ないか」という誘いを数十年越しにする。
何一つ取りこぼしなく見事に描ききり、全ての人を「ひなたの道」に歩ませた『カムカムエヴリバディ 』。
凄い作品を見せてくれた脚本家・演出家・役者陣・スタッフ全ての人もまた、ひなたの道を歩んでくれることを願いたい。
文/田幸和歌子