【ちむどんどん】ヒロイン像も物語も実に王道! 一方で楽しい日々の中に描かれた「残酷な対比」とは?

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「王道の1週目に見えた対比」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【ちむどんどん】ヒロイン像も物語も実に王道! 一方で楽しい日々の中に描かれた「残酷な対比」とは? pixta_87658172_S.jpg

本土復帰前の沖縄本島・やんばる地域で生まれ育ったヒロインと家族の50年間の歩みを描くNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』が2022年4月11日にスタートした。
物語のスタートは、1964年(昭和39年)。

美味しいものが大好きな小学5年生のヒロイン・暢子(稲垣来泉)は、優しい父・比嘉賢三(大森南朋)と母・優子(仲間由紀恵)、兄姉妹に囲まれ、すくすく育った。

そんな暢子たちの住む地域の中学校に、東京から転校生・青柳和彦(田中奏生)が転校してくる。
足が速く、活発なヒロイン像も、「やんばる出身のヒロインが料理人を目指し、東京で沖縄料理の店を開こうと奮闘する物語」というのも、実に王道だ。

なかなか心を開かず、「やっぱり沖縄になんか来るんじゃなかった」と言う和彦に対して、東京の美味しいものの話をしてくれとグイグイ話しかける様子も、食べ物のことになると「ちむどんどんする(胸がわくわくする)」と様子も、朝ドラヒロインらしい。

ところが、「青い海と空、美味しい沖縄料理、温かい家族」の明るく楽しい日々の背景には、様々な悲しみや不穏さが滲む作品となっている。
例えば、病弱な母に代わり、幼い妹弟のために中学にもいかず、家業を切り盛りする砂川豆腐店の智(宮下柚百)。

「お人好し」の優子は自分のおにぎりを砂川家の幼い子どもたちにあげたり、おすそ分けでもらった豪華な魚料理を砂川家にあげてしまったりする。
また、和彦の父で民俗学者の史彦(戸次重幸)が比嘉家を訪れ、優子と賢三と酒を酌み交わす中で、戦時中の思いがそれぞれ語られる。

そしてその夜、一家を空襲で失った過去を思い、優子が涙を流す様子を暢子は見てしまう。

夫婦には借金もあり、悲しい過去や、子どもたちに話していない様々な事情がありそうだ。

そんな折、相変わらず和彦に話しかけ続けていた暢子は、山に誘い、足をすべらせた和彦を助けようとして、足をくじいてしまう。

しかし、それを機に、暢子たちきょうだいと和彦の距離が少しずつ縮まり、やがて家族ぐるみの付き合いになる。

あるとき、暢子たちは青柳父子を夕食に誘う。

食卓に豪華な料理が並ぶ中、大切に世話をしている豚のアババが豚小屋にいなかったことを心配しながら長男・賢秀(浅川大治)が登場。

賢三と優子は「賢秀に話した?」などと不穏なやりとりをしていたが、最初は硬い表情で食卓を囲んでいた和彦が賢三と暢子が作った沖縄そばに笑顔を見せるなど、和気あいあいに。

ところが、豚の話になった際、長女・良子と三女・歌子(布施愛織)が言う。
「まさか」
「この豚肉......」

アババを可愛がっていた賢秀が青ざめ、「俺のアババを食べないで!」と懇願するが、賢三は事前にアババを潰すことを言わなかったことを謝りながらも、こう諭す。

「生きているものは、他の生き物、植物や動物を食べないと生きていけない人間も同じ」「いただきますとは、命をいただくこと。だからきちんと感謝しながらきれいに食べてあげる。それが人の道、筋を通すということさ」
いつか来る運命だと知りつつ、ショックを隠せない賢秀と暢子たちだが、すぐに気持ちを切り替え、命をいただくありがたみを嚙み締める。

そんな中、歌子が「アベベ(もう一頭の豚)はお正月に食べるの?」。
思わず家族も、視聴者もズッコケそうになる強烈な一言だが、子どもはたくましい。

魚料理を砂川家にあげ、自分たちは食べられなかったときも、「もしもお父さんとお母さんが病気で働けなくなったら、みんなも同じように困るんだよ」と優子に言われると、すぐに納得していた比嘉家の子どもたち。

悲しみの受け入れ方、切り替えの上手さ、素直さ、大らかさは、貧しいながらも賢三と優子がたっぷりの愛情と共に与え続けてきた大事な宝物だろう。
そんな暢子たち兄妹の中に和彦が混じって遊ぶ姿は、いつのまにか「5人きょうだい」に見えるほどになる。
あるとき、史彦は食事のお礼にとレストランに比嘉家を誘ってくれ、幸せなひと時を過ごす。

しかし、比嘉家の生活は楽でなく、賢三は一家のため、出稼ぎに行くことに。

そんな中、暢子が自分でシークワーサーをとれるようになる一方で、賢三が突然、農作業中に倒れてしまう。

この対比の残酷さに、賢三の無事を祈らずにいられない第一週だった。

文/田幸和歌子

 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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