毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「ベリーとトミーの名コンビ」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
【前回】るいの心の扉が開いた? オダギリジョーさん演じる錠一郎の「見事な人たらし力」
ラジオ英語講座を軸に、3世代ヒロインの100年の物語を描く藤本有紀脚本のNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の11週目。
ジョー(オダギリジョー)の演奏する「On the Sunny Side of the Street」をきっかけに、記憶の中に閉じ込めていた母への憎しみや思い出が蘇ってしまうるい(深津絵里)。
しかし、ジョーが地蔵盆の夏祭りに、るいが働く「竹村クリーニング店」を訪れたとき、るいは自分の名前の由来や、母のことを初めて他者に話す。
一方、ジョーにとっても「On the Sunny Side of the Street」が特別な曲であることを聞く。
やはりジョーは、るいが母に何度か連れられて行った定一(世良公則)の周りをうろついていた戦災孤児だったのだ。
「母は、私ゅう捨てました。進駐軍さんと、恋をして。幼かった私ゅう置いて、アメリカへ行ってしもうた。じゃから、思い出しとうなかった」
そう語るるいに「会いたいんやなあ、お母さんに」と言うジョー。
るいは「何、言いよんですか? 人の話ゅう聞きょおりました?」と呆れかえり、憤慨するが、これは「謎の男」で「宇宙人」ならではの"コミュ力"の高さが存分に発揮された返しだ。
本人も気づいていない他者の気持ちを敏感に察知し、同情や慰めではなく、サラリと「翻訳」してしまう寄り添い方。
るいはジョーと話しているときだけ、すぐ感情的になり、顔を赤くしたり、口を尖らせたりする。
すぐに閉ざされるるいの心の扉の開け方のお手本を示されたような気がした。
過去を受け入れようと決意したるいは、給料でレコードを買ったり、ジョーにジャズ雑誌やトランペットの吹き方を教えてもらったりする。
「ジャズ」がるいとジョーの距離を縮め、完全に断たれたるいと安子の過去もつないでいく。
そして今週の殊勲章は、ジョーのファン・ベリー(市川実日子)と、トランペッターのトミー(早乙女太一)だ。
トミーはトランペットのコンテストにジョーを引っ張り出すため、ジョーとるい、ベリーと4人のWデートを画策する。
そのWデートを機に、ジョーとるいの「共鳴」を目の当たりにしたベリーは、恋の土俵から降りることを決めるが、そこからの宣言がかっこいい。
「私は負け犬やあらへん。ジョーが世界に認められるトランペッターになったら私の勝ちや」
そして、ベリーを単なる失恋で終わらせないトミーの粋な誘い「僕と共鳴せえへんか」と、それを気持ちよく蹴散らすベリー、なんだか名コンビである。
コンテストで優勝したら一緒に東京に来てくれとジョーは言うが、るいはジョーへの恋心を自覚しつつも、額の傷のことで踏み出せない。
しかし、そんなるいの背中を押してくれたのがベリーだった。
るいはジョーのコンテスト用の衣装を一緒に選びつつ、別れを告げようとするが、食い下がるジョー。
そこで、試着室に逃げ込んだるいは、鏡越しに額の傷を見せる。
かつて母に向かって「I hate you.」という言葉と共に上げられた前髪は、今は試着室の中で鏡越しに、愛する人に嫌われるかもしれない恐れとともに上げられるが......ジョーはその前髪をそっとおろし、優しく抱きしめるのだった。
思えば、「るい編」の最初は面食らうことばかりだった。
「安子編」の絶望から一転、明るいミュージカル調でスタートしたことも、若くて可憐だとはいえ、さすがに深津絵里が18歳には見えないことも、ジョー、トミー、ベリー......?? どこの国の話?? という戸惑いも。
しかし、気づけばるいが18歳に見えるかどうかなんて全く気にならなくなっているし、ジョーにもトミーにもベリーにも愛着がわき、普通に「愛称」で呼んでいる。
いつの間にか視聴者もその世界の一員であるかのようにな気分にさせてくれる『カムカムエヴリバディ 』。
脚本や演出、役者の力の総合力を痛感する第11週だった。
文/田幸和歌子