新年恒例の「90代現役」は、一つのことをずっと続け、自然体で生きてきた方の言葉をお届けします。2022年も良い年でありますように。今回は、作家の澤地久枝さんにお話を伺いました。
「私はいまとっても自由」
91歳 澤地久枝さん(作家)
骨折に負けていたら動けない
だから、前より元気です!
「私は28歳のときに心臓を患い、3度の手術をしているので、長く生きるとは思っていなかったんです。それがいま、91歳。しかも一人暮らし。昔より家の中が片付かず、年だなと思いますが、それも『ま、いいか』(笑)。年を重ねるに従ってこだわりがなくなり、とても自由になったなぁと思いますね」
笑顔で話す澤地久枝さんですが、実は2020年5月に腰椎骨折をし、一時は歩くのもままならない状態だったそうです。
「自宅での軽い転倒だったのに、あまりにも痛いのでお医者さんへ行ったら、第2腰椎が折れていました。介護保険のお世話になって、最初は要介護4。いまは要介護1。回復が早いと驚かれますけれど、骨はまだついていません。でも、いつ治るかなんて考えない。骨折に負けていたら動けないじゃないですか。だから、気持ちのうえでは骨折前より元気ですね。結局、生きる土台になるものは、その人の気持ちのあり様だと思うんです」
執筆は万年筆で。「最近は原稿を書くのが遅くなりました」と、澤地さん
2021年4月には、アフガニスタンで長年医療活動に従事しながらも銃撃された医師・中村哲氏をしのぶ会に出席するため、沖縄まで行き、講演も行った澤地さん。
そしていまは、自らが呼びかけ人の一人となっている「九条の会」の運動に参加するため、毎月3日の午後1時には国会正門前に立つのだそうです。
「弟や妹は『骨折が治っていないのに』と心配するけれど、自分がやりたいことをするときは、痛みも忘れて力が出るものなのね(笑)。80、90歳になったからと、『あれも、これも危ない』と子ども扱いするのは、よくないですよ。仕事や約束があれば、そこに合わせて生きていくでしょう。毎日の料理だっていいんです。私は、週に1回食材を配達してもらい、1日2食、自分で食べたいものを作って食べています。包丁を使うから緊張感があるし、塩分制限がある中で、今日は何を作ろうと考えるだけでも頭の体操になりますよ。何もしなくていいと言われたら、やっぱり、人は怠け者になると思う(笑)。どうやって生きていくかは、自分で考えないと」
着物姿の澤地さん。1980年ごろ。
どう生きるかを考えるために、遺言を書くことをおすすめします。
そのためのいい方法が、「遺言を書くこと」だと澤地さん。
「遺言だと大袈裟なので、自分が死んだ後に迷惑をかけないための"心覚え"くらいの気持ちでいいと思うんです。身辺整理をしてみると考えが整理できるし、自分にとって大事なことが見えてきます。私はもう3回ぐらい書き直していますが、そのたびに新しい発見がありますね。骨折後、身近な人の死を経験したこともあって、私が死んだらいちばん処分に困る着物と帯も、この前全部始末しました。信じられないほど安い金額でしたけれど、片付いてスッキリしました。これでもう悩まなくていい。やりたいことをやって、書きたいことを書いて、会いたい人に会って、いつ終わっても、後悔のないように生きたいですね」
現在、執筆しているのは、終戦を異国で迎え、自決した親族の話。
憲法九条を守り、平和を祈り続ける澤地さんの仕事は、まだまだ続きそうです。
取材・文/丸山佳子 撮影/原田 崇