毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載を毎週お届けしています。今週は「フラグなしで描ききった戦争の現実」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
【前回】誰が予想できた? 意外な「3人の立役者」による"脱ロミジュリ"展開
ラジオ英語会話を軸に、朝ドラ史上初の3世代ヒロインが駆け抜けた100年の人生を描く、藤本有紀脚本のNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の4週目。
今週は稔が出征した2カ月後に安子(上白石萌音)の妊娠が発覚。
そこから出産、長女・るいを連れての束の間の里帰り、戦況の悪化、大切な家族の死......と濃すぎる密度で凄絶な展開が描かれた。
3週目ラストでは、稔との幸せな時間がわずかだったことがナレーションで語られ、おそらく稔が戦争帰ってこないのであろうことは覚悟していた。
しかし、恐ろしいのは、それ以外の大切な人々の死である。
先週ラストの次週予告では、実家である和菓子屋「たちばな」が戦火で焼失し、金太(甲本雅裕)が焼け野原で立ち上がる姿がチラリと描かれていた。
大変な目に遭うものの、父が無事で良かったと思える映像だ。
しかし突然、死を迎えたのは母・小しず(西田尚美)と祖母・ひさ(鷲尾真知子)のほうだった。
しかも、二人に防空壕に行くように言った結果、防空壕が焼夷弾に焼かれてしまい、二人を死なせたと金太は自分を責める。
そして心身共に衰弱し、安子の嫁ぎ先の雉島家で療養することになる。
やがてラジオの玉音放送で終戦が伝えられ、安子は金太を元気づけようとおはぎを作るが、金太はそれを拒否。
しかし、焼け跡からなんとか砂糖を見つけ出した金太は、再び和菓子作りに対する意欲を見せ始める。
雨風をしのげる小屋を建て、おはぎもどきを売り始める金太。
少年がおはぎを盗んだことで、金が払えないならかわりに売って来いと言って菓子箱を渡す。
少年がお調子者の長男・算太(濱田岳)に似ていることから、その少年がおはぎを売って戻ってきたら算太は戦争から帰ってくる、来なかったら算太も来ないと覚悟を決めるための「賭け」だったのだ。
その夜、「おはぎのおいちゃん」という声と戸を叩く音。
ところが......。
入って来たのは少年ではなく、算太だった。
算太はおはぎをいかにして売りさばいたかを調子よく語る。
何が何やらわからない。
しかし、その状況に金太は違和感も持たず、祖父母と妻を死なせてしまったと詫びて「よう帰ってきてくれたのう」と言い、算太を待ち続けていたことを話すのだ。
そこから映し出されるのは、まだ幼い安子と算太と家族・職人、成長してからの二人と、戦争に行った職人たち、亡くなった祖父もみんな揃ってラジオを囲み、笑い、おはぎを食べる様子。
こんなにも暖かくて幸せに包まれた恐ろしい映像って、これまで朝ドラにあっただろうか。
ここで「ラジオの通常放送=平和」という小物使いが実に効いている。
そして翌朝、金太が亡くなっていることが知らされた。
戦争で心身が衰弱し、心臓が弱っていたのだという。
倒れている金太を見つけ、医者を呼びに行ったのは、おはぎを売りに行った少年だった。
最初はそのまま逃げようと思った少年は、甘いおはぎを食べて元気になったことで、「売ってやろう」と思ったのだという。
少年に商いの楽しさを教え、生きる力を与えた金太。
その一方で、少年からは、勘当したまま出征した算太との再会のひとときをもらえたのだ。
それにしても凄まじいのは、大切な人々の死が、稔以外全くのフラグなしで描かれたこと。
母と祖母は完全なる不意打ちだったし、父は元気になってきた矢先、頼りなくも微かにつかめそうに見せた幸せが手から零れ落ちるように訪れた、あまりに切なすぎる死だった。
私たちは近年、ドラマを観るときに「フラグ」に慣れすぎている。
それは心の準備になる一方で、現実の生活にはフラグなんてない。
まして戦争は、病気でもなければ事故でもなく、普通に暮らす人々の人生を突然奪っていくものだ。
心が追い付かず、今も受け入れることができない第4週。
戦争をリアルに知る世代が少なくなった今、若い人たちにもぜひ観て欲しい内容だった。
文/田幸和歌子