こんなご時世だから旅行なんて...と思っていても、たまには羽根を伸ばしたくなりますよね。「ちょっとの空き時間があれば、気軽に行ける場所はたくさんあります」というのは、旅行作家の吉田友和さん。今回は、そんな吉田さんの著書『東京発 半日旅』(ワニブックス)から、東京から短時間で行ける半日旅スポットを連載形式でお届け。少しの移動、短い時間で驚きや発見を楽しむ、"新しい旅行様式"のヒントが見つかります。
※2017年発行書籍からの抜粋です。コロナ禍において、現在の内容と異なる場合があります。
※編集部注:掲載している料金も書籍掲載時のもので、現在は一部異なります。
「日本最古の学校」へ、大人になってから赴く
史跡足利学校
JR東日本が発売している「休日おでかけパス」というお得な切符がある。
土日祝日などに利用できる、乗り放題タイプの割引切符である。
使い勝手としては青春18きっぷに似ているが、こちらは有効期限が1日のみで、対応区間も首都圏近郊に限られる。
当日でも購入可能なのが特徴で、フト思い立って半日旅へ出かけるのに便利だ。
この手の乗り放題切符は、遠くへ行けば行くほどお得である。
パスの料金は2670円。
つまり、片道1335円以上の区間を乗れば元が取れる計算になる。
どうせなら最も遠いところへ行こうとフリーエリアをチェックしてみると、エリアの端っこのひとつが足利駅となっていた。
出発地にもよるが、たとえば新宿発だと足利まで片道1940円なので、パスだと結構お得に旅ができる計算になる。
足利といえば、真っ先に思いつくのは足利学校だ。
国内最古の学校なのだと、歴史の授業で習ったのを覚えている。
2015年には文化庁が認定する日本遺産にも登録されたのだと知って、俄然興味も湧いてきた。
割引切符ありきの旅である。
日曜日、乗り鉄魂を発揮しつつ、足利へ向かったのであった。
宇都宮行きの湘南新宿ライン快速で北上し、小山駅で下車する。
両毛線に乗り換えたすら、途端にローカル線の風情が漂い始めた。
休日とはいえ、車内は妙に空いている。
都心とは違い、列車を乗り降りする際にボタンを押してドアを開閉しなければならないのを見て、遠くへ来たのだなあと実感した。
旅をしていると、こういう些細な発見が印象に残る。
足利駅で降りて最初に抱いた感想は、のんびりしたところだなあということ。
駅前のロータリーにタクシーが数台停まっているが、人気はほとんどなく、妙に閑散としている。
背の高い建物は全国チェーンのビジネスホテルがあるぐらいで、車通りにはこぢんまりとした商店などがちらほら並ぶ。
駅から足利学校までは徒歩圏内だ。
スマホの地図を頼りに、てくてく歩いて向かう。
路地に入ったところで、道が石畳になり急に歴史の風情が漂い始めた。
同時に、いったいどこにいたんだろうと訝るほどに往来の人が一気に増えた。
大賑わいとまでは言わないが、やはり観光地なのだなあと実感するぐらいには人が来ている。
駅前の静けさが嘘のようだ。
きっと、みんなは車で来ているのだろう。
足利学校のすぐ近くには無料の駐車場もあるようだ。
電車だと本数が少ないし、時間もかかる。
栃木県あたりまで来ると、やはり車のほうが利便性は高い。
電車、しかも割引パスで来るなんて、我ながらモノ好きな旅人だよなあと自嘲してしまうのだった。
さて、お目当ての足利学校である。
受付で参観料420円を支払ったら、チケット代わりに「入学証」と書かれた札を手渡された。
なかなか気が利いている。
札の裏面を見ると、「日本遺産」としっかり記載されていた。
ほかにも幟やポスターなどで、日本遺産へ登録された事実を盛んにアピールしているのがなんだか微笑ましい。
「めざせ!世界遺産」などというフレーズも目についた。
良くも悪くも遺産に登録されると箔が付くのは確かだし、客足がぜんぜん変わってくるのだろう。
史跡を訪れると、その地の由来などがにわかに気になり始める。
ガイドのいない個人旅行だし、ガイドブックの類いも持っていないのだが、受付でもらったパンフレットにかなり詳細に説明が書かれていてうれしくなった。
それによると、そもそもの学校の創建については諸説あって定かではないらしい。
現在明らかになっているのは、室町時代に上杉憲実が学校を再興した辺りからで、宣教師フランシスコ・ザビエルが世界に紹介したという説などは比較的よく知られる。
「學校」という二文字がデカデカと掲げられた門をくぐり、敷地内へ足を踏み入れる。
この門はその名も「学校門」と呼ばれ、足利学校のシンボル的存在になっている。
続いて現れたのが、柵で囲われた大きな松の木だ。
この松の木にまつわるエピソードは興味深い。
読めない文字や意味が分からない言葉を紙に書いて、松の枝に結んでおくと、翌日にはふりがなと注釈が付いていたのだという。
そのため「字降松」と呼ばれるようになったのだとか。
松の木の脇を通って先へ進むと、大きな古民家風の建物に辿り着く。
敷地内でもとりわけ目立つこの建物は「方丈」といって、学生たちが学習をしていたところだ。
足利学校の見どころとしては、最大のハイライトと言えるだろうか。
ただ、この建物は平成になってから復原されたものである。
靴を脱いで方丈の中へ突入すると、各種資料が展示されていた。
学費は無料だったとか、卒業は自分自身が納得するまでだったとか、色々とおもしろい話を仕入れることができた。
個人的にとくに気になったのは、大広間で実施されている「漢字試験」だ。
長テーブルの上に問題用紙が置かれており、その場で各自がチャレンジできる。
凝った趣向だなあと思った。
足利学校では自習が基本だったそうで、つまりは当時のスタイルを再現したわけだ。
問題は比較的簡単である。
たとえば、「大音声」「合戦」といった漢字に読み仮名をふる。
そういえば、戦国期には兵法なども学んだのだとも資料に書かれていた。
ランチは学校のすぐ近くにある「なか川」というそば屋へ立ち寄ることにした。
このお店自体が、実はちょっとした観光名所になっている。
「にんげんだもの」で知られる書家の相田みつを氏と縁深いそば屋なのだ。
氏は足利の出身である。
店内には、あの独特の筆跡の文字が随所に飾られており、それらを鑑賞しながらそばを味わえる。
日本酒のメニューが充実しており、そば以外にもニシンの甘露煮などのつまみ類も美味い。
単なるそば屋というよりは、そばが食べられる飲み屋といった感じで、酒好きにはたまらないお店だ。
電車で来るとこういう店も心おきなく楽しめる。
割引パスで浮いたお金で美味しいものを食べる、なんてのも悪くないのだ。
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