まるで「竹の葉」のステンドグラス! 半日旅で心清らかになれる鎌倉「報国寺」

こんなご時世だから旅行なんて...と思っていても、たまには羽根を伸ばしたくなりますよね。「ちょっとの空き時間があれば、気軽に行ける場所はたくさんあります」というのは、旅行作家の吉田友和さん。今回は、そんな吉田さんの著書『東京発 半日旅』(ワニブックス)から、東京から短時間で行ける半日旅スポットを連載形式でお届け。少しの移動、短い時間で驚きや発見を楽しむ、"新しい旅行様式"のヒントが見つかります。

※2017年発行書籍からの抜粋です。コロナ禍において、現在の内容と異なる場合があります。

竹林の絶景に心を動かす

報国寺

梅雨時の6月に鎌倉を訪れたというと、「紫陽花を見に行ったのね」と思わるかもしれない。

せっかく来たのだからと、ついでに明月院―鎌倉最大級の紫陽花スポットとして知られる―へ立ち寄ったのは確かだが、この日のお目当ては紫陽花ではなかった。

向かった先は報国寺である。

鎌倉に数ある寺院の中でも比較的マイナーな存在だった報国寺だが、近年急速に知名度が上がり、メディアなどでもしばしば目にするようになった。

人気に火がついたきっかけは、訪日外国人旅行者だ。

外国人向けの鎌倉の人気スポットランキングでは、上位3位以内に入っていたりする。

報国寺は英語でBamboo Temple(バンブー・テンプル)の愛称も持つ。

バンブー、そう、竹である。

一見普通の禅寺なのだが、寺の裏に広がる「竹の庭」と呼ばれる空間が注目を集めている。

和の風情が感じられ、いかにも外国人が好みそうな景観である。

訪日旅行ブームが過熱し、日本全国どこへ行っても外国人旅行者の姿を見かけるようになった。

こんなところまでよく来るなあ......と感心させられるほどの僻地であっても、観光していると普通に異国の言葉が聞こえてくるから侮れない。

日本人にはあまり知られていないが、実は外国人には超人気のスポットという場所も結構ある。

海外で紹介されてから改めて日本人もその場所の良さに気が付く、みたいなパターンも増えている。

報国寺もまさにその種の観光スポットと言えそうだ。

グーグルマップで地図を表示させると、明月院は「明月院(あじさい寺)」、報国寺は「報国寺(竹寺)」とそれぞれ書かれていた。

わざわざ括弧書きで補足するほどだから、それだけ特徴的ということなのだろう。

東京方面からJRで到着した僕は、北鎌倉駅で降りて明月院、建長寺と徒歩で順に観光していった。

目的地へ直行してもいいが、途中で寄り道するのも旅の醍醐味だ。

ちなみに建長寺にある、パキスタンから贈られたという断食釈迦はなかなか見応えがあった。

そのまま市内中心部へとてくてく歩いて、鶴岡八幡宮の前のバス停から路線バスに乗った。

報国寺へは路線バスが便利だ。

バスの乗客がみな報国寺の最寄り(バス停名は浄明寺)で降りたのには驚いた。

予想していた以上の人気ぶりである。

旅をしていると、観光地にも流行り廃りがあることを実感させられる。

繰り返しになるが、ここはまさに旬のスポットと言えそうだ。

それも、半数以上は外国人だったから、まるで海外旅行をしているときのような気分になった。

欧米人が多いが、アジア系の若者もちらほらいる。

国際色豊かな一団がバス停から寺へとゾロゾロと歩を進めていく。

といっても、周囲は閑静な住宅街といった雰囲気で、鶴岡八幡宮周辺の観光地然とした賑わいと比べると別世界だ。

漂う穴場感も外国人好みと言えるかもしれない。

やがて現れた山門は、生い茂る樹木にこんもりと覆われていた。

「自然に溢れる寺だなあ」というのが第一印象だ。

ここでも紫陽花が最盛期という感じで、儚げに色をつけていた。

門をくぐり、敷地内を少し歩くと間もなく受付が見えてきた。

寺の規模自体はそれほど大きくない。

拝観料の200円を支払いさらに奥へと進むと、そこがもう「竹の庭」なのであった。

狭い間隔で無数の竹が植えられている。竹づくしの空間にしばし圧倒された。

竹はどれも背が高く、地面からぐおんと上へ伸びている。

風が吹くと頭上で竹の葉がさわさわと音を立てる。

静寂の中に身を置くと、邪念が振り払われていく。

心が浄化されるこの感じは、まさに禅寺ならではと言えそうだ。

自分がいる地上付近は薄暗いが、竹の先端には陽光が照りつけ、竹の葉が天然のステンドグラスのような輝きを放っている。

ウットリするような幻想的な光景だ。

カメラを真上に向けている観光客が多いが、撮りたくなる気持は分かる。

ずっと見上げていると首が痛くなってきた。

竹の庭では石畳の歩行者用通路が設けられており、その両脇は柵で囲ってある。

そのため、竹林の中を自由に見て回ることはできない構造だ。

通路は狭く、ほかの人とすれ違う際にはやや気も遣う。

「観光客がもう少し少ないと、なおいいんだけどなあ」

自分だって同じく観光客であることを棚に上げつつ、そんな不遜な台詞を吐きたくなった。

とはいえ、一面の竹というビジュアルはヒーリング効果をもたらす。

禅寺らしい心の平穏が得られる景観と言えるだろうか。

竹の庭には茶屋が併設されており、抹茶を楽しむこともできる。

竹を眺めながら味わう抹茶は大変魅力的ながら、混雑しすぎで席が空いていなかったので今回はパス。

次に来るときは午前中の早い時間など、人がなるべく少ないタイミングを狙おうと心に誓った。

報国寺でお茶をできなかった代わりに、帰る前に鎌倉駅近くで一休みしていくことにした。

向かったのは、鎌倉駅周辺では老舗の「イワタ珈琲店」という喫茶店だ。

「ホットケーキはご注文されますか?」

入店すると、席に案内する前にまずそんな質問をされた。

実はここはホットケーキで有名な店なのだ。

ただのホットケーキではなく、かなり分厚いホットケーキが出てくることで知られる。

厚すぎて焼くのに時間がかかるから、あらかじめ確認しているようだった。

この日は店内が混んでいることもあって、ホットケーキは20分もかかると言われた。

ホットケーキは2枚重ねで800円。

コーヒーが600円。

結構お高いが、観光地プライスと思えば妥当な値段なのかもしれない。

出されたホットケーキを目にして一瞬ひるんだ。

噂に聞いた以上のボリュームだ。

小食の人なら1枚だけでもお腹いっぱいになりそうなほど。

酒は飲むが、甘いものも大の好物である。

禅寺で心を洗ってきたばかりだというのに、早くも欲望にまみれてしまった自分の愚かさに苦笑しながら、シロップをこれでもかとたっぷりかけて頬張った。

【まとめ読み】『東京発 半日旅』記事リスト

まるで「竹の葉」のステンドグラス! 半日旅で心清らかになれる鎌倉「報国寺」 163-c-2.jpg絶景にグルメ、癒しなどをテーマに、東京から半日旅ができる都内・近県60スポットが紹介!

 

吉田友和(よしだ・ともかず)
千葉県生まれ。旅行作家。出版社勤務を経て、2002年初海外旅行ながら夫婦で世界一周を敢行。2005年に旅行作家として本格的に活動開始。主な著書に、『はじめての世界一周』(PHP研究所)、『自分を探さない旅』(平凡社)、『3日もあれば海外旅行』(光文社新書)、『名古屋発 半日旅』『京阪神発 半日旅』『福岡発 半日旅』(全てワニブックスPLUS新書)など。滝藤賢一主演でドラマ化された『ハノイ発夜行バス、南下してホーチミン』(幻冬舎文庫)も話題に。

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『東京発 半日旅』

(吉田友和/ワニブックス)

遠出が難しくなったこんな時代だからこそ知っておきたい旅行の形! 都内、関東近県はもちろん、長野や静岡まで、東京を起点に半日で行ける魅力的なスポットを、世界を旅し、日本を巡った旅行作家が厳選。少しの移動、短い時間でも、旅行は楽しめます!

※この記事は『東京発 半日旅』(吉田友和/ワニブックス)からの抜粋です。

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