こんなご時世だから旅行なんて...と思っていても、たまには羽根を伸ばしたくなりますよね。「ちょっとの空き時間があれば、気軽に行ける場所はたくさんあります」というのは、旅行作家の吉田友和さん。今回は、そんな吉田さんの著書『東京発 半日旅』(ワニブックス)から、東京から短時間で行ける半日旅スポットを連載形式でお届け。少しの移動、短い時間で驚きや発見を楽しむ、"新しい旅行様式"のヒントが見つかります。
※2017年発行書籍からの抜粋です。コロナ禍において、現在の内容と異なる場合があります。
お気に入りの「マイ陶器」を探しに 益子陶器市
益子へ行くのにあえて車で向かったのは、理由があった。
同地で開かれる陶器市がお目当ての旅だったからだ。
陶器は重たいし、割れ物なので運搬するのに気を遣う。
車で行ったということはつまり、買う気満々だったわけだ。
関東周辺で焼き物といえば、益子焼は真っ先に名前が挙がるほどメジャーな存在だろう。
この町では年に2回、春と秋に陶器市が開催される。
始まったのは1966年というから、僕が生まれるよりもずっと前の話だ。
歴史ある陶器市であり、いつか行ってみたいと密かに願っていたのだ。
木々が色づき始めた11月初旬の日曜日、マイカーを北へと走らせた。
北関東自動車を桜川筑西インターで降り、一般道をさらに北進する。
このあたりはまだギリギリ茨城県なのだが、やがて看板が現れ栃木県へ入った。
なるほど、益子は県境に近い町らしい。
地図で見ると、すぐ近くの茨城県側には「笠間」の名前も発見した。
笠間といえば、益子と並び知られる関東屈指の焼き物の里だが、これら2つの地は案外近距離にあるようだ。
なんだか有田焼と波佐見焼の関係に似ているなあと思った。
以前に佐賀県まで焼き物を買いに出かけたのだが、有田町と波佐見町も結構距離が近かった。
そのときも今回同様、陶器市がお目当ての旅だった。
有田焼および波佐見焼の陶器市が同時期に開催されていて、二つの町をはしごしたのだ。
時期はゴールデンウィークである。
益子陶器市の春の部もほぼ同じ日程で開かれている。
GWは焼き物週間でもあるようだ。
都内からだと、渋滞していなければ益子まで2時間もかからない。
午前の比較的ゆっくり目に出発したが、正午近くには到着した。
逸る気持ちを抑えつつ、まずはランチがてら情報収集をしようと、国道沿いのそば屋へ入る。
そばの味はまあ普通だったが、益子焼の器で食べるという演出がなかなかニクい。
レジ前に陶器市の地図が置かれていた。
ネット上にPDFで上がっているのと同じものだが、カラーの大判サイズで印刷されており見やすいので、1枚いただいておく。
「駐車場はどこが便利ですかね?」
その地図を広げながら、店の女将に根掘り葉掘り尋ねてみた。
地図を見ると会場は広そうで、駐車場も複数箇所用意されている。
限られた時間で効率良く見て回るには、情報収集が肝心だ。女将によると、共販センター裏の駐車場が近くてオススメとのこと。
「ただし、空いていれば......ですが」
女将はそう付け加えた。
日曜だし、きっと混雑するのだろう。
どうか入れますように、と祈りつつ教えてもらった駐車場へ向かうと、とくに並んだりすることもなく、アッサリ駐車できて拍子抜けした。
たまたま運が良かっただけだろうか。
車を停めた共販センターは、地元の窯元の焼き物が集まった総合販売所で、益子焼だけでなく地場の野菜や果物なども売られている。
雰囲気としては、道の駅のような場所を想像すると分かりやすい。
この共販センターの建物の中を突っ切り、駐車場とは反対側に出ると、そこがまさに陶器市のメイン会場となっていた。
屋外の広いスペースに、テントがぎっしり立ち並んでおり、右を見ても、左を見ても陶器、陶器、陶器といった具合。
おおっと思わず声が出た。
まるで宝の山の中に放り込まれたような心境で、キョロキョロと目移りしてしまう。
益子焼といっても幅広く、各テントごとに売られているものはさまざまだ。
陶器市では大手の窯元と、小さな個人商店が混在しており、ある種のごった煮状態なのがいいなあと感じた。
特定の気になる作家さんがいるわけではなかったが、行き当たりばったりで見て回っても十分に満足できる。
広い会場内を練り歩きつつ、自分だけのお気に入りを探し出す醍醐味。
宝探しのような感覚で楽しめる。
そのほか陶器市ならではの目玉としては、いわゆるB級品などが格安で売られているワゴン・コーナーは要注目だ。
B級品と言っても、違いがほとんど分からないようなものばかりで、一枚数百円ぐらいから投げ売りされている。
コストパフォーマンスは最強なので、用途次第ではこれらを狙うのもアリだろう。
陶器市は共販センターだけでなく、期間中益子町内で広範囲にわたって開催されている。
個人的に興味を惹かれたのは、メインロードから路地に入り、陶芸メッセへと通じる上り坂のあたりに並ぶテント群だ。
ここは「よこみち作家テント」というエリアで、こぢんまりとはしているものの、ほかよりも個性的な作品が多いように感じられた。
作家さんご本人から直接購入できるのも魅力だ。
僕自身は、どちらかといえばトラディショナルなものよりも、モダンなデザインに心惹かれる。
店の看板を見ると、すべてが益子焼ではなく、日本全国から出展しているのだと分かった。
同じ作家さんの、まったく同じ種類の器でも、ひとつひとつが手作りなので個性がある。
微妙に形が違ったり、色の濃淡があったりするから、手にとってじっくり品定めしたい。
各テントではディスプレイも凝っているから、なんだか屋外ミュージアムみたいで見て歩くだけでも楽しい。
でも、せっかく来たのだから、ここはやはり購入してこそ、と言えるだろう。
大きな買い物袋を両手に抱えた買い物客が行き交う様に触発され、物欲に火がつく。
スープカップや、大きめの丸皿など、すぐにでも使えそうな器類を仕入れた。
自分では料理はしないくせに、旅先で陶器類を物色するのは大好きである。
国内だけでなく、海外旅行でもよく買って帰ってくる。
ベトナムの有名な陶器村バッチャンへは2回も訪れているし、数年前にポーランド陶器にハマってボレスワビエツという東欧の田舎町まで買い付けに行ったこともある。
わざわざ遠方まで陶器を買いに行くなんて、興味のない人の目には物好きと映るかもしれない。
でも、行って買うことに意義がある。
少なくとも、旅のいいきっかけになるのは確かだろう。
※「令和3年度益子 春の陶器市」は、新型コロナウイルスの感染状況を鑑みて、主催者から開催中止の発表がありました
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