定期誌『毎日が発見』で好評連載中の、医師・作家の鎌田實さん「もっともっとおもしろく生きようよ」。今回のテーマは「人生をおもしろくする、本や絵本、映画との出合い」です。
僕の自宅の本棚。
鎌田の"本棚"大公開
よく、本棚を見れば、その人自身がわかるといわれます。
本棚には、その人の趣味、思想、過去、交友関係なんかがつまっているのです。
だから、本棚を見られるのはちょっと恥ずかしい。
でも、そんなことを言っていられなくなりました。
昨年春、佐賀市内に「まちなかライブラリー鎌田文庫」がオープンしました。
ここには、僕の人生を作った本など1万冊、絵本2000冊が収蔵され、一般に公開しています。
佐賀市の「まちなかライブラリー鎌田文庫」
さらには、『鎌田實の人生図書館』(マガジンハウス)という本も出しました。
僕の好きな文学作品、青春時代にはまった映画、大人になってからその魅力に気づいた絵本など400点以上を紹介しています。
もう僕の本棚どころか、頭の中まですっかり見せてしまっています。
あなたにとっての大事な一冊は?
女子テニスのスーパースターで、テニス界の妖精ともいわれたマリア・シャラポワが昨年、「お気に入りの映画は何か」という雑誌のインタビューに『恋愛適齢期』と答えていました。
2003年の作品で、ジャック・ニコルソンとダイアン・キートン主演の恋愛コメディです。
若い世代のラブストーリーでなく、中高年の恋愛映画を選ぶなんて、しゃれてるなと思いました。
「お気に入りの本は何か」という質問にも答えていました。
シャラポワは、ヴィクトール・フランクル著『夜と霧』を挙げていました。
負けた。
かっこいい。
文句なしに名著です。
うなりを上げてサーブを打ち込むシャラポワの気迫と、まっすぐな姿勢を思い出し、ますます彼女のファンになりました。
自分にとって大事な映画や本として、何を挙げるか。
これも興味深いですが、そうした大事な一冊、大事な一本を持っているということだけでも、かっこいいと思います。
それだけではありません。
読書習慣は健康にもよいことがわかっています。
アメリカのイェール大学の研究では、読書する人は2年近く寿命が長いと報告されているのです。
人生を豊かにするとともに、健康長寿にもつながる読書。
中高年にはぜひ、おすすめしたいと思います。
本のことを考える時間は、至福の時間
『鎌田實の人生図書館』のなかで僕は、好きな日本の作家ベスト7とか、放っておけない作家ベスト7など、こだわりのランキングを挙げています。
鎌田好みの日本の作家ベスト7は、1位堀辰雄。
『風立ちぬ』が好き。
生と死の狭間で二人の若い夫婦が必死になって幸福とは何かを考えていきます。
文豪という言葉に当てはまりませんが、僕はこういう作家が好きなのです。
2位は中原中也、3位は宮沢賢治、4位は川端康成、5位は中上健次。
中上健次が長生きをしていたら、ノーベル文学賞の候補になったのではないかと想像して楽しんでいます。
6位は三島由紀夫、7位は夏目漱石です。
このベスト7を選ぶのは、とても楽しい時間でした。
骨太の作家たちベスト10というのも選びました。
1位はヘミングウェイ、2位はドストエフスキー、3位はカフカ、4位はガルシア・マルケス、5位はトーマス・マン、6位はカミュ、7位はオルハン・パムク...。
ヘミングウェイは『老人と海』が最高傑作だと思いますが、僕は『キリマンジャロの雪』が好きです。
7位に挙げたパムクは、『雪』『わたしの名は紅』という傑作を書いています。
『新しい人生』という小説では、「ある日、一冊の本を読んで、ぼくの全人生が変わってしまった」という書き出しに、すっかりやられました。
そう、本は人生を変えてしまう力を持つのです。
昔の映画で思い出がよみがえる
コロナ自粛で、巣ごもり時間が長くなった昨年、僕は半年間で150本近く映画を見ました。
多くは昔見た映画ですが、これを初めて見たときのことを思い出したり、当時は気づかなかったことを発見したり。
月額数百円の会費を払えば、インターネット配信で何本も見られるなんて、なんて便利な時代になったことか。
『第三の男』『道』『ニュー・シネマ・パラダイス』など、グッとくる映画から、それほど有名な作品ではないけれど、いい映画をたくさん見直しました。
僕が選んだファンタジー映画ベスト10は、ほとんどヒットしなかった映画の中から選びました。
好きな音楽映画ベスト10なども気に入っています。
大人がグッとくる絵本の世界
絵本のランキングもあります。
お孫さんに買ってあげる絵本とか、中高年になって読むとグッとくる絵本はどれかも紹介しています。
たとえば、『空の飛びかた』(光村教育図書)は、大人におすすめのすばらしい絵本です。
肥満気味のペンギンがどうやって空を飛べたのか。
人生の生き方が示されているようにも思えます。
『なまえのないねこ』(小峰書店)も素敵な絵本。
名前のない野良猫は、名前を持っている猫たちをうらやましがります。
自分で名前をつけようと必死に考えますが、なかなかいい名前が浮かびません。
けれど、雨の日、小さな女の子と出会って気づくのです。
「ほしかったのは、なまえじゃないんだ。なまえをよんでくれるひとなんだ」と。
コロナ禍のいま、本との出合いを大切に
本や絵本、映画とのつきあい方は人それぞれでしょう。
手あたりしだい、興味の向くまま何でも読むという人もいれば、一冊をじっくり深く読み込む人、買って手元に置くだけで満足して、なかなか読み進められない人もいます。
コロナ時代、新しい友人は作りにくいかもしれませんが、本や絵本、映画と出合うことはできるでしょう。
ぜひ、あなたにとって大切な一冊を見つけてください。
【カマタのこのごろ】
朝一番でスキー場のゴンドラに乗って、3キロのダウンヒルを3本、休みなく滑り降ります。マスクをしながら冬の"貯筋"をしています。その後、本作り。ワーケーション(※)しています。
※ワーク(労働)とバケーション(休暇)を合わせた造語。