眠れない、だるい...といった年齢とともに増える体の不調。「薬膳なら解消できます」と言うのは、テレビで活躍しながら国際薬膳師の顔も持つ麻木久仁子さん。そんな麻木さんの著書『生命力を足すレシピ』(文響社)から、「薬膳の基本」や疲れにくくなる「薬膳レシピ」をご紹介。今日の献立にひと工夫を。
スーパーで見る景色が変わる瞬間
薬膳を学んでから少したったころのこと。
いつものスーパーで買い物をしていて、あることに「はた」と気がつきました。
「あ!百合根だ。旬の時期だとこんなに安いんだ!」
「ウドが出てる!こんな所にいたのね。みずみずしい!」
「あら!山椒の実が。きれいな緑!」
「今日のとうもろこしは、きれいなひげがついてる!なんて新鮮!」
それまでは、スーパーに行っても漫然といつものコースをたどって、いつもの買い慣れた食材を買い、いつものように調理するという繰り返しでした。
ですが、食材が持つバラエティに富んだ力について学び始めてから、ちょっと視線を動かすだけで、いつものスーパーにも本当にたくさんの食材があることに気づいたのです。
以来、それまで目を留めていなかった棚の隅々まで見るようになりました。
そうして見ると、それぞれの食材に、それぞれ違った輝きの生命力が宿っている。
そんな宝石のようなきらめきが、私の体内に入って元気を分けてくれるイメージまで湧いてくるのです。
食べ物にはすべて、固有の生命力があります。
キャベツも、豚肉も、もとはすべて「生きていたもの」。
ですからどんな食材もエネルギーの塊です。
いつものスーパーが今までとは違った景色に見えてくるはずです。
ハンバーガーだって、じつは薬膳
「薬膳」といわれると、多くの方が「クコの実とか、なんだか難しい食材を使う専門的な食事」というイメージをお持ちだと思います。
でも、それは大きな間違いです。
たとえばハンバーガー。
これもじつは、「薬膳」になるのです。
薬膳には「これを食べちゃダメ」という、食材の制約はありません。
あまり知られていませんが「口に入るものはすべて薬」。
これが、本来の薬膳の考え方です。
食べたものはすべて、体を形作るものだからです。
たとえば夏の暑い日なら、いつものハンバーガーに、輪切りのトマトとレタスをたっぷりと足してみてください。
トマトやレタスは、体の熱を冷ます力がありますから、汗をかいてほてった体を、ニュートラルな状態に整えてくれます。
現代では当たり前となった、ビタミンやカロリーというような栄養学。
こういった概念がまだない時代、「薬」と「食事」の境目は、今よりずっと曖昧でした。
今は「薬=病気になったときに治してくれる、特別なもの」という認識ですが、昔は「薬=病気になるのを防ぐ、毎日の食事」だったのです。
ずいぶん違いますよね。
なぜ薬=食事だったのか?
それは昔、人の命というのは、今よりはかないものだったから。
今なら病院で当たり前のように治療できる「風邪をひいた」といった程度の不調でも、命の危険に直結しかねませんでした。
だから口に入るものを、今以上に大切に考えたのです。
ちょこっとつまんだクッキーも薬。何気なく飲んだ緑茶も薬。
「いつ」「何を」「どんなときに」食べるか。
季節や体調を考えて選んだ食材を使えば、どんなものでもすべて薬膳になるのです。
症状別や季節に合わせた70の薬膳レシピを集めた料理本。食材図鑑など薬膳の基本が身に付きます