新型コロナウイルスに便乗するものも出てくるなど、進化し続ける「詐欺」の手口。そんな詐欺や悪徳商法に詳しいルポライター・多田文明さんの著書『だまされた!「だましのプロ」の心理戦術を見抜く本』(方丈社)から、現代の詐欺から身を守る方法を抜粋してお届けします。
「アマゾン」「ヤフー」になりすます大手IT企業詐欺の手口
「あなたには有料動画サイトを閲覧した履歴があり、料金の未納が発生している。もしこのまま料金を払わなければ運営会社から訴訟を起こされ、給与や不動産などの財産が差し押さえられますので、至急ご連絡ください」
「裁判」や「財産差し押さえ」といった脅し文句にあわててしまい、メールに書かれた番号に電話をしてしまう。
「はい。こちら、Yahoo!(アマゾン)ですが、いかがいたしましたか?」と、オペレーターを名乗る人物が出てくる。
「未納料金があるというメールが来たのですが?」
「お名前と、お電話番号をお願いします。確認いたします」
それに答えて、しばらく待っていると
「はい、確かにあなた様には未納料金がありますね。本日、お支払いいただけますか?」
「おいくらになりますか?」
「20万円になります」
「そんなに高い金額ですか!」
「はい、延滞金などが加算しております。お支払いいただけませんと、訴訟手続きに入ることになります」
まさに、ネット利用者が普段使っていて身に覚えのあるアマゾンやYahoo!などの大手のサイト業者をかたりながら、ごりごりと銀行ATMでの支払いをするように迫ってくる。
ところが昨今、こうしたメールでの架空請求は迷惑メールフォルダなどに自動的に振り分けられて、だませる人が減ってきている。
そこで、詐欺師らは電話番号だけでメッセージを送れるSMS(ショートメッセージサービス)を使うようになった。
ショートメールを普段あまり使わない人は、不意打ちを食らわされてしまうことになる。
私は、詐欺師との電話での対決番組をたびたびしているが、架空請求をしてくる業者とのやりとりを何日にもわたって収録をする。
ある時、ロケでいつも音声を担当してくれるスタッフが、頭をかきながら話しかけてきた。
「いや〜、先日、アマゾンからのショートメッセージが来たので本物だと思ってしまい、つい電話をかけてしまったんです」
電話をかけてから相手の対応や文言を聞き「あっ!ロケでやっている詐欺と同じだ」と気づいたという。
これだけ私たちの架空請求のやり取りを間近で見ていながらも、つい電話をかけてしまうのだ。
人は想定外のことには本当にもろいもの。
詐欺師は、その心理につけ入ってくる。
また、ネットで関心のある動画サイトをクリックしただけなのに、いきなりアダルトサイトにつながり、「ご登録ありがとうございます」と、数十万円もの高額な料金を請求された経験があるかもしれない。
こうしたサイトでは、脅す手段として時間のカウントダウンを表示して、早く支払わないと大変なことになるぞと、期限を切って利用者を焦らせてきたり、料金画面を閉じたつもりでも再び画面を出して消せないようにして、電話をかけざるをえないように仕向けてくる。
これでもか、これでもかと次々に心理的プレッシャーをかけてきて、不安感からのアクションを起こしてきた人を狙うのだ。
架空請求では、日ごろ、スマートフォンやパソコンなどを操作する機会の多い若者か中高年層にいたるまでの幅広い年代が狙われるが、その罠はいたるところに仕掛けられている。
主婦であれば、巷で話題の「離婚・結婚・不倫」などの芸能ニュースの動画を釣り餌に。
若者であれば、アニメやゲームサイトをタップさせるといった具合である。
パソコンだと無視すればいいのだが、スマートフォンだと電話とネットが一体になっているため、そうはいかないこともある。
表示された請求画面を消したつもりなのに、なぜか業者へ勝手に電話がかかってしまったり、「誤操作の方はこちら」というボタンがあり、そこを押してしまうと、自分の番号が通知された形で相手の業者に電話がかかってしまう。
詐欺師としては、電話さえかけてくれれば、脅し文句はいくらでも準備しているので、自信たっぷりに詐欺の言葉を浴びせかけて、だまそうとしてくる。
ネットを見ながらタップするだけで電話をかけられるという利便性をうまく利用して、私たちを詐欺にはめようとしてくるのだ。
詐欺をする側の手口や心理、現状、そして「電話の切り方」など身を守る術が全7章にわたって網羅