新型コロナウイルスに便乗するものも出てくるなど、進化し続ける「詐欺」の手口。そんな詐欺や悪徳商法に詳しいルポライター・多田文明さんの著書『だまされた!「だましのプロ」の心理戦術を見抜く本』(方丈社)から、現代の詐欺から身を守る方法を抜粋してお届けします。
警察のふりをしてカードをだまし取る詐欺師のテクニック
「あなたの銀行口座が、詐欺犯らによって不正使用されています」
ニセの警察からの電話である。
今、警察による詐欺撲滅のための徹底した取り締まりがおこなわているが、詐欺犯らはそうした対策のウラを突くように、警察を装って高齢者宅へ電話をかけてくる。
さらに「あなた自身が犯罪行為に巻き込まれている可能性があります」と言われるのだから、動揺しないはずはない。
「今からお宅へおうかがいしますので、通帳やキャッシュカードを用意しておいてください」
そして高齢者宅を、スーツを着た刑事風の男が訪れる。
「捜査のためにカードを警察のほうで預からせてください」
そう言ってカードをだまし取っていく。
電話をかけてから家を訪れるまでの所要時間は、1時間以内ときわめて短い。
その時、ニセの警察手帳を私たちに見せて信用させてくることもある。
警察手帳など、日ごろ目にしていないものだ。
それゆえに、見せられた人は真偽の判断がつかず、あっさりと信じ込んでしまうことになる。
時に、電話をずっと繋ぎっぱなしの通話状態にして訪問することもある。
詐欺は第三者に相談させるヒマを与えずに一気におこなうのが手なのだ。
「このまま口座が悪用されれば、あなた自身が犯人と疑われる恐れもあります。そこで、あなたがこの口座のキャッシュカードを使っていないことを証明するために」
家を訪れたニセ刑事が、持参した1枚の封筒を手渡す。
「この中に、ご自身のキャッシュカードを入れて封をして厳重に家で保管してください」
家人は指示どおり、キャッシュカードと通帳、さらに暗証番号を記入した紙を入れて、自分の手で封を閉じる。
ニセ刑事は、最後にこう一言つけ加える。
「では、あなたが封筒を開けていない証拠に封の部分に捺印して、あなた自身が保管してくださいね」
「はい」
家人が印鑑を取りに行くために、居間に向かう。
そして戻ってきて封筒に印を押す。
刑事は言う。
「では、この封筒を指示があるまで開けずに厳重に保管していてください。大事なものですからね」
「わかりました」
そして、刑事は出ていく。
はて、どこでニセ刑事は犯罪をおこなっているのだろうか?
そう思ったあなたはだまされている。
この直後に、まんまと詐欺師は金をだまし取っているのだ。
というのも、家人がハンコを取りに行っているあいだに、男は事前に用意していたダミーのカードを複数枚入れていた封筒と本物の封筒をすり替えていたのだ。
家人は封筒がすり替わっていることに気づかないために、ニセのカードが入った封筒を家で大事に保管しておくことになる。
そのあいだに詐欺師はキャッシュカードを使って、現金を引き出すのである。
これは詐欺師たちのだましパターンのひとつで、「私たちの目線をそらせる」というやり方だ。
人は別なことに注意を向けさせられると、大事なものから目をそらしてしまいがちになる。
そして、本人はだまされていることに気づかぬままに詐欺師の意図どおりに誘導させられてしまうのだ。
詐欺をする側の手口や心理、現状、そして「電話の切り方」など身を守る術が全7章にわたって網羅