新型コロナウイルスに便乗するものも出てくるなど、進化し続ける「詐欺」の手口。そんな詐欺や悪徳商法に詳しいルポライター・多田文明さんの著書『だまされた!「だましのプロ」の心理戦術を見抜く本』(方丈社)から、現代の詐欺から身を守る方法を抜粋してお届けします。
定番の「息子」ではなく、孫、甥にずらしてきた新型詐欺
70代の高齢の夫婦のもとに〝孫〞をかたる男から電話がかかってきた。
その窮状を心配して、夫婦で京都から熱海へと向かい、現れた孫の知人に300万円を手渡している。
このように、息子になりますのではなく、登場人物を変えて孫をかたってくるのだ。
これが〝甥〟ということも多い。
高齢になればなるほど孫や甥の数は多くなり、すべての身内の声を聞き分けられるはずもない。
この点を突いてくる。
なかには、自宅に孫をかたる人物から「仕事の書類の郵送先をまちがえた」という電話がかかり、それをきっかけに80代高齢の夫婦と40代の息子の家族3人が、本物の孫からの電話だと思い込んでしまい、自宅に来た部下を名乗る男に600万円を渡してしまった事例もある。
詐欺師は「家族で合い言葉を決めておきましょう」だけでは、カバーできない点をつくる。
長年言われ続けてきた詐欺の対策には、どこかほころびができてくるものだ。
そのことを踏まえた上での対策を施さないと、逆に被害の拡大を許してしまうことにもつながりかねない。
実直な高齢者ほど、「『ATMからお金を振り込んで』と言われたら、それは詐欺です」という詐欺対策を、被害を防ぐための重要なキーワードとして心に強くインプットしていることだろう。
ところが、詐欺師らはターゲットの高齢者と話す中で「この人は『ATMからお金を振り込んで』の言葉を使うと、詐欺と思う危険性があるな」と思うと、「お金を宅配の荷物に入れて郵送してください」や「今からお金を取りに行くから100万円用意しておいて、家で待っていてくれるかな」など、別の方法を指示してくる。
これを聞いた高齢者は、「ATMからお金を振り込むわけではないので、これは詐欺ではない」と思ってしまい、相手の要求に応じてしまうことになる。
つまり「ATMからお金を振り込んでと言われたら、それは詐欺」という注意喚起だけにとらわれていると、逆にきわめて危険な状況に陥ってしまうのだ。
では、新たに「宅配でお金を送るのは詐欺」「現金を要求するように言われたら詐欺」などの標語で注意喚起すればいいのではないか、と思う人もいるだろう。
だが、近年は先に述べたようにコンビニのレジでプリペイドカードを購入させる手口も出ている。
つまり詐欺師が「〝お金を用意して〞と言うと、詐欺と疑われる」と思えば、「コンビニで購入したカードの裏面にある番号を電話で教えてください」と言って、金を搾取する方法をとる。
こうなると、現金を直接に渡しているわけではないので、相手はこれまた詐欺とは思わず、すんなりとその指示に応じてしまう。
このように、常に詐欺は注意や対策の背後を突いて、やってくるものなのだ。
最近では、コンビニの収納代行サービスを利用することもある。
これは、事前に「支払い番号」を伝えておき、それをコンビニに置いてある専用端末に入力させ、そこから出てきた支払い用紙をレジに持って行かせて金を払わせる方法だ。
レジで金を払ったあとに領収書をよく見るとオークションの商品落札代金になっていたり、チケットの購入になっている。
だまされた人は訳もわかからず端末機器の操作をさせられて、金をだまし取られてしまう。
中には高齢者ゆえに操作方法がわからず、コンビニの店員に操作を手伝ってもらい、金を送ってしまったケースもある。
支払いが演歌歌手のチケット代金などになっていたら、店員はそれが詐欺かどうか見抜くのは難しい。
では、コンビニ店員に注意の指導をもっと徹底的にすればいいではないかと思うだろう。
問題は、そう簡単ではない。
長くコンビニの店員をしているベテランなら見抜ける余裕があるかもしれないが、
最近は外国人店員も増えており、入ったばかりの人で煩雑なコンビニ業務をこなすのに精一杯の人もいるだろう。
そうした人たちに業務内容の他に詐欺対策を周知徹底させることは、実情、なかなかに難しいところもあるのだ。
詐欺をする側の手口や心理、現状、そして「電話の切り方」など身を守る術が全7章にわたって網羅