同居や介護、相続など、親との関わりがより深まってくる40~50代。でも、それ以前に「親子の関係」がギクシャクしているとまとまる話も、なかなかまとまりません。そこで、親子の間にわだかまりが生まれるのは、「そもそも親に原因がある」と説く人気心理カウンセラー・石原加受子さんの著書『「苦しい親子関係」から抜け出す方法』(あさ出版)から、苦しみの原因と解決策を連載形式でお届けします。あなたのお家は大丈夫ですか?
「相手を傷つける言動」がしみついている
「相手を傷つけながら、〇〇をする」というのは、直ちにネガティブな関係を築く最悪のパターンですが、大なり小なり、ほぼすべての人たちがやっていることです。そして、この繰り返しで、親子の関係が悪化しています。
ある家族で、こんなことがありました。
娘が、重い椅子を移動させようとしていました。二人で運べば簡単なのですが、母親に頼むと小言を言われると感じている娘は、一人でやろうとしています。
その姿を目にした母親は、案の定、「そんなの、一人じゃ無理よ。ほら、そんなやり方じゃダメなんだから、コツがいるのよ」と口を挟んできました。
その言葉の中には「私がいないと、あなたは何もできないでしょ」という自分の優位性を示す意識が隠れています。
母親に屈服したくない娘は、「大丈夫だから、手伝ってくれなくてもいいわよッ」この言い方にもトゲがあります。心理的な争いの始まりです。
後に引けない母親は、娘の動きを注視しながら、「ほら、言ったでしょう?それじゃあ、ダメよ。無理に押したら廊下に傷がつくでしょう」咎めるような声を上げ、娘を脇に押しのけて自分でやろうとしました。
こんな状態になってしまえば、娘が「自分でやるから」と言い張ったとしても、母親は引き下がらないでしょう。「自分でやるって、言ってるでしょ!」と娘が語気を強めて拒否すれば、母親は気分を害するでしょう。
かといって、お互いに椅子を挟んで奪い合えば、争いになります。
母親の強引さに負けた娘が手を引くと、「ほら、うまくいったじゃないの」と、勝ち誇ったように言うでしょう。
娘のやることに口出しをして、「ほら、いつだって、あなたは私がいないと、ダメなのよ」という持論に持っていきたいのが母親の本音なのです。
母親は善意のつもりだが......
このケースでは、どう転んでも、娘は傷つくことになります。その後で、「自分でやると言ったのに」と娘が悔し紛れに言えば、母親は「でも」という常套句で、「任せておけないから、手伝ったんでしょう」などと、"ああ言えばこう言う"のやりとりになるでしょう。
娘が怒った形相でその場を去ろうとすれば、その背に向かって、「どうして、こんなにひねくれてるんだろうねえ。まったく素直じゃないんだから。感謝の一言でも言うべきじゃないの」といった追い打ちの言葉を浴びせるかもしれません。
こうした光景は、日常生活のあらゆる場で見られます。
母親の立場からすれば「手伝ってあげようと思ったのに」という善意のつもりです。
しかし実際には、「椅子の移動」を口実に、争いを仕掛けています。娘の気持ちを尊重するのであれば、娘が「自分でやる」と答えたときに、「じゃあ、手助けが必要なときには、声をかけてね」というような自分中心の言い方で、娘に任せることができるはずです。
子どもに干渉するときの親の心理
このようなとき、本人たちは、自分たちが争っているとは感じていないかもしれません。普段からお互いに感情的な言い方をする家族であれば、それを「争い」だとは認識しないでしょう。
では、どうして、お互いに「引き下がれない」気持ちになってしまうのでしょうか。
争っていなければ、「ありがとう、じゃあ、お願いするね」などとポジティブな言い方ができるでしょう。
しかし、なかには、「そんなことは、口が裂けても言いたくない」という母親や娘がいます。
それは、母娘がすでに「勝ち負けにこだわってしまう関係」になっているからです。この例のように、母娘で主導権争いをしているとき、母親は、自分の行動を撤回すると、自分が負けたと認めることになります。負けたら、主導権を渡すことになります。それを恐れる母親は、常に、娘に勝ち続けなければなりません。
このような無意識の争いが生じているのです。
もちろん、そうした意識だけでなく、親心として、娘に協力したい、手助けしたいという気持ちもあるでしょう。自分が娘の役に立つことで「必要とされている」ということを実感していたいという欲求もあるでしょう。
何よりも、他者に相手にされないことは、誰もが無意識に恐れていることです。娘が自立すると見捨てられてしまうという孤独への恐れから、自分に依存させていたいという無意識の目論見もあるのでしょう。
こうしたいくつもの思いがない交ぜになって、母親は子どもに干渉していってしまうのです。
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