「激安海外旅行」はなぜ安い?価格の裏にある食事の秘密

老後資金のために「そろそろ真剣に貯蓄しなきゃな...」と思いつつ、でも実は「お金」について真剣に考えたことはない、という方も多いのではないでしょうか?そこで経済評論家の佐藤治彦さんの著書『お金が増える不思議なお金の話』(方丈社)から、佐藤さんの実体験をもとにまとめた「人生が楽しくなるお金の捉え方」のエッセンスをお届け。まずは身近なところから「お金」について考えませんか?

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ボーノ、ボーノ! イタリア激安旅行に参加すると、サイゼリヤの偉大さに出合う

「佐藤さん、本場のイタリアまで来たのに、料理はたいしておいしくなかったわね」

激安イタリアパック旅行のツアーメイトだった主婦が、旅の終わりに私にそう言った。

「そうじゃないですよ、おいしいイタリア料理を食べに行ってないからですよ。むしろ、おいしくないところばかり選んでいる感じでした」
「そんなことないでしょう。だって、わざわざ日本から来てるのよ。旅行会社が多くのレストランからおいしいところを選んでるはずでしょ」
「6泊8日で13万円でしょう。安すぎますよ、予算の問題があるから料理はしかたないでしょうね」
「予算があってもプロが選んでるのよ、安くておいしいところを選んでくれてるはずよ」
「安くておいしい店は、かたい頑丈な扉の向こうにあります!」
「何言ってんの。おいしくないところばかり選ぶなんてあるわけないでしょう(怒)!」

いやいやいや、そんなウソのようなことが本当に起きているのです。

私は自身は救われていた。自由時間に、イタリア好きのおしゃれ雑誌の編集者が教えてくれた、ローマのポポロ広場のそばのトラッタリアに行ったからだ。予約なしの飛び込み、ほぼ満席だったが人のよさそうなトラッタリアの親父は、「相席でよければ」と席を取ってくれた。小さなアンティパスト、もっちもちトローリの特製ピザと、気どらないハウスワインのデカンタで、チップ込み15ユーロ。安かった、おいしかった。

おいしくて安い店は、もちろんあるのだ。ただしそんな店は、世界中どこに行っても混んでいる。びっくりするような料理ばかりをツアーで食べていたので、これを食って、私は救われたのだ。ほっぺたに人差し指をおっ立てながら言った。

「ボーノ、ボーノ(ウマい、ウマい)!」

店の主人も、私のようなおっさんに言われて気の毒だが、うれしくなって笑顔で店を後にした。

「イタリア8日間13万円」なんていう激安ツアーがあって人気だ。日本から添乗員が同行し、ローマ、フィレンツェ、ベネチア、ミラノなどをめぐる6泊の旅だ。

一般的なのは、ミラノ、ベネチアに1泊ずつ、フィレンツェ、ローマに2泊ずつ泊る。到着日はミラノに宿泊し、翌日、2日目の午前中にミラノの市内観光をし、ベネチアへ移動。また、その翌日の午前中にベネチアのサンマルコ広場あたりの観光をして、フィレンツェに移動といった具合だ。

これには、往復の飛行機代はもちろん、ホテル代、観光バス代、美術館などの入場料、現地のガイド代、それに、食事代も含まれる。食事はイタリア旅行の醍醐味のひとつ。しかも日本人はイタリア料理が大好きだ。フライト時間などにもよるのだが、たいていの8日間6泊のイタリア旅行では、朝昼晩と5回ずつ食事の機会がある。激安旅行でもこの大部分に食事がつく。

もう一度申し上げる。往復の飛行機代、6日間の観光バス代、6泊のホテル代、日本からの添乗員に入場料、現地ガイド代などなど、観光にかかわる諸々の費用に含めて、15食の食事も入っての価格が13万円。旅行会社の利益もこの中に含まれる。で、13万円なのだ。

こういう予算の限られたツアーだから、きっと旅行会社は先に書いた、安くておいしい店に観光客を連れて行ってくれるだろうと思うかもしれない。しかし、ほとんどの場合、そういううれしいことは、起こらない。できないのだ。

それにはきちんとした訳がある。安くておいしい店はツアー客の予約を取らない。その必要がないからだ。なぜなら、そういう店はいつでも満員、大繁盛。テーブルが空いている時間はない。ツアーの客の予約を取るということは、たとえば35人分のテーブルを予約のために長時間も空けておくことを受け入れることになる。団体が来たときに「席があと3席ないんですよ」などと言えないのだ。「それでもかまわない」といって予約を取ってくれる店は、それだけ流行っていない店なのだ。

流行っていない店とは、たいてい「安くも、おいしくもない店」だ。さらに、激安ツアーの1人あたりの予算は限られている。私の参加した激安ツアーは、「前菜、メイン、デザートでランチは1000円、夜は1500円の予算」だと、添乗員さんは教えてくれた。安くなく、おいしくもない店な上に、予算もない。もうほとんど「うまいイタリアン」にありつく可能性はゼロだ。

そして、とどめの一撃が、ツアーでは「全員分の料理を、ほぼ同時に出す接客が求められる」ということだ。

安くもおいしくもない店が、35人分以上の料理を一度に出さなくてはならない。それは、ピザやパスタも作りおきをしておくことを意味する。もともとおいしくない店が低予算で作りおき。そりゃあ、うまいものが出てくるわけがない。

冷めたマルゲリータピザには、バジルが1枚だけ乗っていた。トマトソースのパスタは、ミートソースでもボロネーゼでもないシンプルなトマトソースのスパゲティ。「アルデンテという言葉を知ってる?」と聞きたくなるような代物。きっと、このレストランの従業員は店の料理を食べないだろう。こうした料理ばかりが激安団体旅行では出てくるのだ。

忘れられないのが、ミラノの郊外にあるコモ湖のレストランだ。最後に出てきたジェラートはスープのごとく完全に溶けていた。あたりまえだ。アイスクリームを器に入れて、20分も30分も調理場に置いておけば、溶けるに決まってる。

ツアー客の多くは、アイスクリームをスプーンですすっていた。うまいイタリアンにありつけているかどうかは、食べている人の顔を見ればわかる。ああ、哀しい。

本来はアンティパストなど、冷えてもおいしいものや煮物系料理が大人数の団体客向けなのだが、激安ツアーの予算では、どうしても冷めたらまずい炭水化物系のメニューになりがちだ。

激安ツアーで、ときに夕食が1、2回ついていないことがある。実はこのときだけが、激安ツアーでおいしい、まともなイタリアンにありつくチャンスなのだが、ツアーを安さだけで選ぶ人は、できるだけお金を使いたくないのが相場。

さらに、ツアーでイタリア料理をいろいろと食べてみたけれど、たいしておいしくないから食事を抜くとか、日本にもあるファストフードに行く。中には日本から湯沸かし器を持ってきて、わざわざ「赤いきつね」や「緑のたぬき」を食べる人も少なくないのが実情だ。こうして、せっかくのチャンスも棒に振る。私は最初に書いたレストランで救われた。

ボーノ、ボーノ!

激安ツアーで行くイタリアンはおいしくない。おいしい料理は出ない仕組みになっている。そのレベルは、わかりやすく申し上げると、少し訓練したアルバイトがマニュアルに従って作る、日本の激安イタリア料理チェーン、「サイゼリヤ」のほうが何十倍もおいしいと申し上げたい。いや、私はあの価格を考えると、世界でいちばんうまいイタリア料理を出しているとも思う。偉大だ。激安イタリアツアーに参加すれば、「サイゼリヤ」がどれだけすごいかわかるはずだ。

Tシャツ100円、スマホ1000円と聞くと「安すぎる。劣悪品だったり、何か裏があるんじゃないの?」と疑うことを知ってる消費者が、なんで「イタリア旅行8日間13万円」の価格はすんなり受け入れるのだろう。

わざわざイタリアまで、まずいイタリア料理を食べに行く。そんな激安団体ツアーが今年も多く販売されている。

050-syoei-hushiginaokane.jpgケチらずにお金をためられるヒントがギュッと詰まった全20話のマネーエッセイ

 

佐藤治彦(さとう・はるひこ)

1961年生まれ、東京都出身。経済評論家。慶應義塾大学商学部卒、東京大学社会情報研究所教育部修了後、約5年間JPモルガン、チェースマンハッタン銀行勤務。退職後は金融誌記者、国連難民高等弁務官本部でのボランティアなどを経て独立。各メディアで、コメンテーターとしても活動中。

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『お金が増える不思議なお金の話―ケチらないで暮らすと、なぜか豊かになる20のこと』

(佐藤治彦/方丈社)

貯金できない人の最大の原因、それは「お金との付き合い方を間違っている」こと。ケチらず使って心を豊かにすれば、「きっとお金は自然と増える!」という経済評論家のエッセイ。実体験をもとにまとめた20のエピソードで、楽しくおトクにお金のことが学べます。

※この記事は『お金が増える不思議なお金の話―ケチらないで暮らすと、なぜか豊かになる20のこと』(佐藤治彦/方丈社)からの抜粋です。

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