今さら聞けない!でも知っておきたい!「英国のEU離脱問題」

英国のEU離脱期限が10月末に控えています。この問題は私たちの身近なところで影響はあるのでしょうか? 拓殖大学政経学部、法律政治学科准教授の細井優子先生に「英国のEU離脱問題」についてお話を伺いました。

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2016年に行われた国民投票の結果、英国はEU(欧州連合)から離脱することになりました。期限は当初3月だったのですが、10月末に延期されています。その中で離脱強硬派のジョンソン首相が新たに就任。EUの合意がなくとも10月末に離脱するのか、期限をさらに延期するのか見通しが立たず、事態の混迷が収まっていません。

英国をEU離脱へと突き動かしたものとは

「Britain(ブリテン、英国)」と、退出を意味する「Exit(イグジット)」を合わせた造語「Brexit(ブレグジット)」を目にする機会が増えています。

この造語が示す英国のEU(欧州連合)離脱の期限が、10月末に迫っているからです。

当初は今年3月29日がEU離脱の期限だったのですが、結局、10月末まで延期されることになるなど、事態の混迷ぶりが報じられています。なぜ、英国はEUから離脱しようとしているのでしょうか。

EUの政治について詳しい細井先生は、「伝統的に受け継がれている、自国の主権を重んじる英国の風潮が第一に挙げられます」と、指摘しています。「英国は自国の主権が侵害されるのを嫌います。統一通貨であるユーロを導入せず、以前からの通貨であるポンドを使い続けているのも、その風潮の表れです」と、細井先生。

それに加え、東欧諸国からの移民問題が起こりました。

2000年代に入り、経済基盤が弱いポーランドなどの東欧諸国が次々にEUに加盟し、EUの原則である「人の自由移動」を利用して、賃金の高い英国へ出稼ぎに来るようになったのです。そこに08年のリーマンショックによる不景気が重なり、英国民は、EUのせいで移民が増え、仕事を奪われている、と感じるようになりました。

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エスカレートしていく世論に対し、キャメロン元首相は上の経緯のように、16年にEU離脱の是非を問う国民投票を実施しました。

結果、僅差ながらEU離脱票が残留票を上回り、キャメロン元首相は辞任。後継のメイ前首相は国民投票の結果を受け、EUと合意した上での「秩序ある離脱」を行い、EU内で自由に貿易できる「関税同盟」などに一部とどまり、「人の自由移動」も容認する「ソフト・ブレグジット」の道筋を探っていくことになりました。

実は、キャメロン元首相はEU残留派。そのため、EUとの間で英国の主権をある程度維持できる内容の新たなEU改革案も引き出していたのです。16年の時点で国民投票を行えばEU残留派が勝ち、EU離脱派を抑え込めるというもくろみがあったのですが、裏目に出ました。

英国を袋小路に追い込むアイルランド国境問題

その後、17年3月末にメイ前首相はEU離脱を正式に通知し、規定通り2年後の離脱を目指し、EUとの協議を開始しました。しかし、そこに大きな問題が立ちはだかりました。それが、アイルランドとの国境問題です。

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上の地図のように、英国は大きく分けて、グレートブリテン島とアイルランド島北部で構成されています。アイルランドは20世紀前半に英国から独立したのですが、その後もアイルランド統一を目指す民族運動や過激派によるテロなどが1990年代前半まで続いていました。

その後98年に和平が成立したのですが、英国がEUの「関税同盟」からも離脱することになると、物の往来時の検疫、通関などの業務のため、英国の北アイルランドとアイルランドの間で厳しい国境管理が必要になります。和平は国境を自由に往来できる状況が前提でしたので、これは再び両国間の火種になりかねません。

英国もEUもその危険性は認識しているため、メイ前首相がEUとの間で協議した離脱協定案には、「バックストップ(防御策)」と呼ばれる項目が盛り込まれました。

両国間の国境管理に解決策が見つからない場合、EU離脱後も具体策が見つかるまで無期限で英国はEUの「関税同盟」にとどまり、両国間の国境は開放されたままにする、というものです。

しかし、英国議会は「それでは自由に世界各国と貿易交渉ができず、主権の回復にはならない」と猛反発。この問題を解決できないまま、離脱期限を最長で今年10月末まで延期することになり、メイ前首相は辞任。7月に「10月末でのEU離脱を実現する」と訴えるジョンソン首相が就任しました。

ジョンソン首相はEUとの合意が成立しない「合意なき離脱」になったとしても、10月末でのEU離脱を主張しています。その場合、EUの「関税同盟」などからも離脱する「ハード・ブレグジット」となり、英国は大きな経済的ダメージを受けてしまいます。それを防ごうと、野党は離脱延期法を成立させました。10月末での「合意なき離脱」か、3度目の期限延期か、混迷は続いています。

「秩序ある離脱」の場合は、「離脱後の移行期間で対策も取れるので、英国にも世界にも、私たちの生活にも大きな影響は出ないでしょう」と、細井先生。しかし、「合意なき離脱」は違います。「英国の貿易が停滞し、英国のGDP(国内総生産)も下がり、日本や世界の経済にも影響します」(細井先生)。身近なところでは、車やスコッチなどの英国製品の価格に影響が出るかもしれません。英国に拠点を置く日系企業の中には、ドイツへの移転などを進めているところも。英国がEU離脱についてどのような選択を行うのか、注意深く見守りたいですね。

構成・取材・文/仁井慎治 地図/小林美和子

 

<教えてくれた人>

拓殖大学政経学部 法律政治学科准教授

細井優子(ほそい・ゆうこ)先生

法政大学大学院博士課程修了(政治学博士)。埼玉大学基盤教育研究センター准教授などを経て2017年より現職。専門は国際政治学、EU政治。ジャン・モネEU研究センター(慶應)事務次長・主任研究員も務める。

この記事は『毎日が発見』2019年10月号に掲載の情報です。

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